第44話 破れない約束
俺は狩りを中断し、急ぎノアの村の東口に戻った。しかしそこにはリリアや兵士の姿はなく、村の人達で辺りは騒然としていた。
おそらく今この村にいる大部分の人がここにいるのではなかろうか。とにかく状況を詳しく知っている人に話を聞きたい。
「ユートくん!」
俺は辺りを見回していると、突如大きな声で呼び止められた。
「村長さん。リリアは⋯⋯何があったかわかりますか?」
「すまない⋯⋯リリアさんはわしらを守るために⋯⋯」
村長さんは悲痛な面持ちで俯く。
「突然レガーリア王国の兵士が現れて⋯⋯」
やはりリリアを連れ去ったのは王国だったのか。
「そしてリリアさんをよこせと言ってきて⋯⋯リリアさんは結界魔法を使ってわしらも守ってくれたんじゃ」
リリアの結界魔法がどれくらいすごいのかわからないけど、そう簡単に破られることはないと思う。けど以前聞いたことがあるけど、結界魔法は魔力の消費が激しいらしい。もしかしたら魔力が切れてしまった可能性がある。
「大丈夫⋯⋯きっとユートくんが助けに来るからと、頑張って結界を維持していたんじゃが⋯⋯」
「ご、ごめんなさい! 私達のせいなの!」
突然村長の後ろから少年少女達が現れ、頭を下げてきた。
「どういうことかな?」
俺は膝をつき、子供達と同じ目線に合わせ問いかける。
しかし子供達は涙を流していて、すぐに話を聞けそうになかった。
「それはわしから説明しよう」
「村長さんどういうことですか?」
「兵士を率いていた者、確かボーゲンと呼ばれた男がこの子達を人質に取ったんじゃ。結界をすぐに解かないとこの子達を殺すと」
村長のここまでの話で読めてきた。そのようなことをされればリリアが取る行動は一つしかない。
「結界を解いて自分からついていったんですね」
「そうじゃ⋯⋯じゃが結界魔法を維持している時のリリアさんはとても辛そうじゃった。どのみち長くは持たなかったと思う。この子達を恨まないでほしい」
「恨む? そんなこと思っていませんよ。リリアは連れ去られただけですから」
奴らも聖女であるリリアに手荒な真似はしないだろう。命の危機ではないなら大した問題じゃない。
「ユ、ユートくん⋯⋯君はまさか⋯⋯」
「ええ。取り戻してきます。リリアは東側に向かったんですよね?」
「無茶じゃ! 奴らは百人近くおった! そんな中に飛び込めばいくら君でも⋯⋯」
「そこにリリアがいるなら行かない理由はありません」
命の恩人であるリリアが⋯⋯いや、命を救われてなくても、リリアという少女のためなら何人いようが助けに行く理由になる。
彼女のような心優しい人物をまた、自分達の都合のいい牢獄に閉じ込めるなら俺は絶対に許さない。
「ユートお兄ちゃん⋯⋯リリアお姉ちゃんを助けてくれるの?」
子供達の中で一番年上の、十歳前後の少女が涙を流しながら話しかけてきた。
「うん」
「でも村長のおじいちゃんが危ないって⋯⋯」
「心配してくれるんだ」
「そうだよ。リリアお姉ちゃんのことも心配だけどユートお兄ちゃんにも何かあったら⋯⋯」
俺のことも心配してくれるなんて優しい子だ。これ以上この子を泣かせる訳にはいかない。
俺は少女の両肩に手を置き、真っ直ぐに瞳を見つめる。
そして少女にしか聞こえない声で囁く。
「実は皆には秘密なんだけど⋯⋯お兄ちゃんは隣のレガーリア王国で、一番強いって噂される剣士なんだ」
「えっ?」
「だから本気を出せば、相手が何人いようとリリアお姉ちゃんを助けることは簡単だから」
「そうなの?」
「うん。だから君は安心してここで待ってて。必ずリリアお姉ちゃんを連れてくるから」
「本当?」
「ああ本当だ。リリアお姉ちゃんが戻ってきたらまた一緒に遊んでくれないか? リリアお姉ちゃんは君達と遊ぶのが大好きだからね」
「うん⋯⋯でもその時はユートお兄ちゃんも一緒に遊んでね。私、おままごとしたい」
「わかった。約束だ」
俺は少女と小指を結び、絶対に破ることの出来ない約束を交わす。
「ユートくん馬だ」
村長さんがいつの間に持ってきたのか、俺の馬をここに連れてきてくれた。
「ありがとうございます」
「こんなことしか言えんが、気をつけてくれ」
「大丈夫です。こちらこそ村長さんにご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません」
村長さんも今回の件は聖女が関係しているとわかっているだろう。けど何も批判せずにいてくれている。
「二人でここに必ず戻ってくるんじゃぞ」
「ありがとうございます」
そしてまだ俺達を見放さないでいてくれている。
だけどこれからもこの村に住み続けるのは難しいだろう。今回リリアを救いだしたとしても、再びレガーリア王国からの刺客が来ることは間違いない。
だが何を考えるにしても、まずはリリアを救いだしてからだ。
俺は村人達に見送られながら、急ぎリリアを助け出すため、ノアの村の東へと向かうのだった。
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