第43話 不穏な影
ロマリオに向かった翌日。
俺達はいつもの日常に戻っていた。
朝早くから村長さんが作物の育ち具合を知らせてくれ、エルウィンが朝食の材料を持って現れる。
そしてリリアを起こしてご飯を食べて、それぞれの仕事場へと向かう。
「ユートくんのその弓の技術はどうやって身につけたんだ?」
森の奥で猪を仕留めた後、ノアの村で長らく狩りを担当しているソルトさんが話しかけてきた。
「どうやって⋯⋯ですか。それは狙った獲物に矢が当たらなかったら、自分に矢が飛んで来るからです」
「「「えっ?」」」
俺の言葉に村人達は、ちょっと何を言っているのか意味がわからないといった様子だった。
普通はそう思うよな。だけどこれは事実だ。おかげで何度死にそうになったことか。しかし結果として弓の腕は上がったので
「冗談です。何回も練習したからですかね⋯⋯はは」
「びっくりした。ユートくんでも冗談を言うんだな」
「言いますよ。例えばリリアは肉の串焼きを一人で三十本食べるとか」
「ハッハッハ! それは面白い冗談だ!」
「身体が小さいリリアちゃんがそんなに食べるわけないもんな」
まあこれも本当のことだけど誰も信じないよな。
「それにしても最近獲物の数が多くないか?」
「魔物が減ったからこの辺りが安全になって、動物が増えたんじゃないのか」
確かにそういう見方もある。このまま勘違いしてくれればいいが、いつかそれもおかしいと気づく時がくるかもしれない。その時リリアはどうなってしまうのか? いざという時の身の振り方も考えておいた方がいいかもしれない。
「とにかく悪いことじゃない。鉱山でミスリルが取れるようになるし、作物も良く育つ、出稼ぎに行っていた若い者達も帰ってくるし、良いこと尽くめだ」
「それじゃあ若い者達に腹一杯食べさせるため、もう一匹狩りに行くか」
「そうだな」
その若い者達の中にリリアも入れてくれると助かる。最近食費がすごくて。実は俺が狩りについてきてるのもたくさんの食糧を確保するためだったりするのだ。
「ユートくん、俺達で獲物を追い込むから弓矢で仕留めてくれ」
「わかりました」
村の人達が先行し、俺は後からついていく。
「いたぞ!」
しばらくすると村人達の声が上がったので、俺は弓を引き構える。
草木が揺れ、何かが近づいてくる気配がした。村の人達が上手くこちらに誘導してくれたのか、後は俺が矢を当てるだけだ。
しかしこちらに向かってくる気配は、動物のものとは思えない。もしかしてこれは⋯⋯
俺は茂みから出てきたものに対して、反射的に弓を向ける。
「まて! 俺だ俺」
何と茂みから現れたのはエルウィンだった。
「今日はこの辺りで狩りをしていることは知ってるよな? いきなり飛び出してきて危ないぞ。危うく射つところだった」
「絶対に射つなよ。とりあえずその弓をこっちに向けるのはやめてくれ」
俺はエルウィンの言葉に従って弓を下に降ろす。
それにしても何故ここにエルウィンが? 今日はいつも通り洞窟へ向かったはずだが。
「それで何があったんだ?」
「それが発掘したミスリルを置きに村に戻ったら⋯⋯兵士がいたんだ」
「兵士? ロマリオのか」
「いや、あれはロマリオの⋯⋯サレン公国の兵士じゃなかった」
サレン公国の兵士じゃない!? まさか⋯⋯
「リリアは! リリアはどうした!」
俺はエルウィンの胸ぐらを掴み問い詰める。
「ちょ、苦しい! 落ち着けって!」
「これが落ち着いていられるか! リリアはどうした!」
「その兵士達に連れて行かれちまったよ」
「お前は黙って見ていたのか!」
「無茶言うなよ。俺がついた時は既にリリアちゃんは捕まってたんだ」
「それでもエルウィンなら何とか出来ただろ!」
「相手は一人や二人じゃねえ。少なくとも百人近くはいた。俺一人じゃどうにもならねえよ」
「ちぃっ!」
俺はエルウィンを離し、急ぎ村へと向かう。
今はこうしている時間もおしい。
それにしても大部隊でリリアを奪いに来るとは。やはり聖女の祝福が失われ、王国が衰退しているということなのか。
だがそんなことは俺にとってはどうでもいい。今はリリアを取り戻す!
俺は捕らえられたリリアを救うため、森の中を風のように駆け抜けて、ノアの村へと急ぐのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます