第40話 束の間の平和
◇◇◇
村の東側の入口で、バーカルに雇われた奴らを始末した後、俺は村の中央にある村長の家へと向かった。
「ユート様、大丈夫ですか?」
すると馬の蹄の音を聞きつけたのか、リリアが出迎えてくれた。
「大丈夫。それより村の人達は?」
「皆様の御協力もあり、村の方々は全てここにいます」
「そうか⋯⋯良かった」
逃げ遅れた人がいないことに俺は安堵する。
人質に取られてしまうと、リリアは相手の言うことを聞いてしまいそうだからな。
後は西側がどうなったか。エルウィンがこの場にはいないので、まだ脅威が去った訳ではない。
やられてしまったのか、それとも苦戦しているのか。どちらにせよこちらに取っては良くない状況だ。
「リリア、もう少しここで皆を守っててくれ」
「わかりました。ユート様はどちらへ?」
「エルウィンのことが心配だ。村の西側へ向かう」
結界を張れるとはいえ、リリアの敵となる奴らをここに連れてくる訳にはいかない。
それなら俺が迎え撃って始末する。
俺は西側に向かうため、馬を走らせようとするが⋯⋯
「その必要はないぜ」
突然声が聞こえてきたので目線を向けると、そこにはゆっくりと馬を走らせてこちらに向かってくるエルウィンの姿があった。
「エルウィン」
「エルウィンさん」
俺とリリアはエルウィンに駆け寄る。
「俺の方が速いと思ったけどさすがだな」
「厄介な敵が一人いたけど、他は大したことがなかったから」
「ザイードだろ? さすがにあいつとは戦いたくなかったから、ユートが始末してくれて助かった」
「知ってたのか! まさかわざと俺を東側に⋯⋯」
「ハッハッハ! 終わったからもういいじゃないか」
こいつ⋯⋯知ってて俺をザイードがいる方に送り込んだな。やはりこのエルウィンという男は油断ならない。
「リリアちゃん、俺頑張ったぜ。ここは御褒美にデートの一回でも⋯⋯」
「ユート様、早く村長さんにも知らせてあげましょう。きっと心配していますよ」
「そうだな。行こうか」
エルウィンが何か言っていたが、俺はリリアを馬に乗せて村の西側へと向かう。
「ちょっと待て! 俺の話を聞いてくれ!」
しかし俺は追いすがるエルウィンの声がリリアに聞こえないよう、両手で耳を塞ぐ。そしてロマリオへと馬を走らせるのであった。
そしてザイード達の襲撃を退けてから三日が経った。
「ユートくんリリアさん大変じゃ!」
「今日はどうしましたか」
俺は眠い目を擦りながら、村長さんに対応する。ミミも村長さんの声で起きたのか、ベッドから床へと飛び降りていた。ちなみにリリアは村長さんの大きな声を聞いても眠りから覚めず、まだ夢の中にいる。
「聞いてくれ! は、畑にある作物に実がなっているじゃ!」
一昨日、昨日と畑の作物が成長し、毎朝村長さんが報告に来てくれているのだ。
リリアが村に来てからは畑の作物から芽が出て、苗になり、実をつけてと急速に育っていた。聖女の力、恐るべしと言った所か。
「本当にありがたいことじゃ。このトマトは今朝もいだものじゃから、リリアさんに是非食べてもらいたい」
「あ、ありがとうございます」
村長さんは赤く生ったトマトを幾つか置いていく。
「他にも収穫出来るものがあるから、また持ってくる」
そう言って村長さんは颯爽とこの場から去ってしまった。
正直リリアはよく食べるので、食糧の差し入れはとても助かる。村長さんも生き生きとしており、楽しそうで何よりだ。
この数日でノアの村は大きく変わった。
まず人口が倍くらいに増えた。出稼ぎに行っていた若い人達が戻ってきたのだ。
これまではこの村では仕事がなかったが、今は作物の収穫と鉱山でミスリルの採掘の仕事がある。
それにしてもまさか鉱山で採れるものがミスリルだとは思わなかった。
ミスリルは軽くて丈夫な金属で、武器や防具で絶大な人気を誇るため、高値で取引されているものだ。バーカルが躍起になって手に入れようとしたことが、今なら理解出来る。
これでようやく俺達の周囲の騒動が終わり、平和な暮らしが出来ると思っていたが、一つだけ予想外のことが起きていた。
それは⋯⋯
「おっはよう! 今日も良い天気だな! 一緒に朝食を食べようぜ」
村長と同じ様に、毎朝エルウィンが俺達の家に来るようになったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます