第39話 どんな手を使っても勝てばよい
「何だあいつは」
男達は武器を構え、エルウィンを訝しげな目で見ていた。
「バーカル様からの伝言だ。とりあえずこっちに来てくれ」
「バーカル様? 雇い主の手の者か?」
「あいつは見たことがあるぞ。確かバーカルの護衛をしていた奴だ」
本来なら突然現れた怪しい男について行くことはないが、何人かがエルウィンのことを知っていたので、男達は跡をついていく。
「ここの岩陰に隠れてくれ」
「隠れる? 何故だ」
「ロマリオの街から五人の衛兵がこちらに向かっている」
「衛兵だと!? 俺達の計画がバレたのか!」
「いや、そういう訳じゃない。最近ノアの村の周囲に現れる魔物を討伐しに来たんだ」
「ちっ! 厄介だな。だがたかが五人の衛兵なら殺っちまうか」
「そういうと思ったぜ。この岩陰は狭いが街道からも近い。衛兵が通った時に襲撃するっていうのはどうだ?」
「そうだな。村に金目の物はないだろうから、衛兵達の装備を売っぱらうか」
エルウィンの提案に男達は頷き、岩陰に隠れる。
「衛兵達はどれくらいで来るんだ?」
「ここに来る前に見たが、十分以内には現れるんじゃないか」
「いきなりこの人数に襲撃されたら、恐怖で絶望に落とされるだろうな」
「違いねえ!」
男達は下衆な笑みを浮かべながら、衛兵達が来るのを今か今かと待っていた。
そのような中、エルウィンは男達の話に合わせながら背後へと忍び寄る。
そしてポツリと一言⋯⋯
「絶望に落とされるのはお前らだけどな」
「えっ?」
エルウィンが絶望という言葉を発した瞬間、半数の男達の命は失われた。何故ならエルウィンが剣をなぎ払い、男達の命を刈り取ったのだ。
「はっ? 何だこれは」
そして生き残った者達の身体に、事切れた男達の血が飛び散る。
だが男達は突然のことで何が起きたか理解出来ていない。
「雨? いや、血だ!」
だが気づいた時は既に遅し、エルウィンはさらに剣を振り下ろし、命を奪っていく。
油断している相手に背後から襲いかかることで、一瞬にして男達を倒すことに成功する。そして残るは後一人だが、仲間達が殺られたことで恐怖し、立ち上がることが出来ない。
「おま、お前何を!」
「何を? 見てわからないのか? 害虫駆除だ」
「後ろから斬りつけるなんて卑怯だぞ!」
「卑怯? あんたは害虫を殺す時に正々堂々と戦うのか?」
エルウィンは冷徹な目つきで男を見下ろす。
「や、やめろ⋯⋯わかった! 村には手は出さねえ! 最初からこんなことやりたくなかったんだ」
村を襲うだけではなく、衛兵を殺害して追い剥ぎをしようとしていた奴の台詞とは思えぬ言葉が返ってきた。
「本当だ! もうこの仕事からも足を洗う! だから助けてくれ!」
男はなりふり構わず土下座をし、エルウィンに命乞いをする。
「はあ⋯⋯」
エルウィンはその様子を見てため息をつき、剣を鞘にしまう。
「これからは人の役に立つことをする! 見逃してくれてありがとう!」
男は涙を流しながらエルウィンに感謝の言葉を述べた。
そしてエルウィンは男に背を向け、この場から立ち去ろうとするが⋯⋯
(バカめが! 誰がこの仕事をやめるか! 人を殺して金になる。最高の仕事じゃねえか! それにしてもこいつは躊躇いもなく仲間を殺りやがった。俺達を騙しやがって! 生きたままここから離れられると思うなよ)
男が土下座し、反省の弁を述べていたが、もちろんそれは嘘だった。
そして憎悪の感情を胸に秘めながら、エルウィンが隙を出すのを待っていたのだ。
男は静かに剣を手に取り、気配を消しながらエルウィンに近づく。
(お前だって背後から騙し討ちをしたんだ。悪く思うなよ)
害虫と貶され、仲間を討たれた怒りを殺気に変えて、エルウィンの背中目掛けて剣を振り下ろす。
「そう来ると思ったぜ」
だがエルウィンは男の行動を読んでいた。
エルウィンは攻撃が届く前に、男の心臓を突き刺す。
すると男はなす術もなく、その場に倒れるのであった。
「わ、わかって⋯⋯いたのか⋯⋯」
男は地面に這いつくばったまま、最後の力を振り絞りエルウィンに問いかける。
「悪党の考えって、読めちゃうんだよな。背を向ければ、必ず攻撃してくると思ったぜ」
「あ、悪党は⋯⋯貴様だろ⋯⋯」
「そうかもな。だが誰が俺を悪党だと思うんだ? お前らを始末する所を見ていた者は誰もいない。むしろ俺は悪党からこの村を守った英雄として祭り上げられるだろう」
「こ、この⋯⋯やろう⋯⋯」
「悪いな」
本当に悪いと思っているのかわからないが、エルウィンは謝罪の言葉を口にした。
だがその言葉を聞いた者は誰もいなかった。
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