第38話 ユートVSザイード後編

「どうした? さっきより腰が引けているぞ」

「あんたの剣は食らったら終わりだ。今はかわしてチャンスを待つしかない」

「いつまで続くか見物だな」


 ザイードは変わらず慎重に剣を振るう。

 そのため、大振りからのカウンターなどは狙えない。

 どんなに優位に立とうが淡々と相手を追い詰めていく。こいつはプロの殺し屋だ。

 いや、そんなことはないか。おそらく内心では自己顕示欲が強く、相手を見下しているんだ。本当にプロの殺し屋なら名前など名乗らず、自分の魔力の特性など話さないだろう。

 だがその油断が命取りだ。


 俺は迫ってくる剣を大袈裟にかわし、態勢を崩す。


「これで終わりだ!」


 ザイードは勝利を確信し、俺に向けて剣を振り下ろしてきた。

 タイミング的にはかわすことは出来ない。

 ザイードにはこのまま俺を剣ごと砕く姿が見えているのだろう。


 だが!


 ザイードの剣と俺の剣が重なった瞬間、キィンという甲高い音が鳴り響いた。


「バカな!」


 俺の剣を切り裂いたと思っていたのか、ザイードは驚愕の表情を浮かべていた。

 そのため、何故このような状況になっているのか理解出来ておらず、動きが一瞬止まる。

 俺はその一瞬の隙を見逃さず、がら空きとなっている胸に剣を突き刺す。


「ぐはっ! な、なぜだ⋯⋯」


 するとザイードは、苦悶の表情を浮かべながらその場に倒れるのであった。


「ふう⋯⋯上手くいったな」


 作戦が成功したことに、俺は安堵のため息をつく。


「ど、どういうこと⋯⋯だ」


 ザイードは心臓を貫かれたことで虫の息だ。リリアクラスの回復魔法使いがいないと助かることはないだろう。


「簡単なことだ。そもそも俺は、最初から全力で魔力を使ってなかった。あんたの仲間と戦っていた時は、手加減していたってことさ」


 ザイード以外からは魔力を感じられなかったから、魔闘士ではないことはわかっていた。そのため剣技だけで倒せると判断したのだ。


「ぼ、膨大な魔力⋯⋯を感じたのは⋯⋯気のせい⋯⋯では⋯⋯なかったか。だが⋯⋯何故そんな⋯⋯ことを⋯⋯」

「そんなこと? あんたを簡単に倒すことが出来たじゃないか」


 剣を受け止められることはないと信じて疑わなかったこと。目の前の若造に膨大な魔力はないと判断したこと。結局は油断したザイードのミスだ。


「ふっ⋯⋯確かに⋯⋯その通り⋯⋯だ。最後に⋯⋯私を倒した⋯⋯者の⋯⋯名前を⋯⋯教えてくれ」

「俺はユートだ」


 名前を告げると、今にも閉じそうだったザイードの目が見開く。

 本当なら恨みを買うかもしれないので、伝えることはしない。だがザイードは死にゆく存在だ。

 誰に殺されたか、ザイードも知りたいのかもしれない。


「まさか⋯⋯王国の⋯⋯天才剣士だった⋯⋯とはな⋯⋯⋯⋯」


 そう応えると、ザイードの目がゆっくりと閉じていき、反応しなくなった。

 少し騙し討ちのような形だったが、悪く思うなよ。今の俺には時間がないんだ。


 俺は始末した屍を見下ろした後、馬を使ってリリアの元へと向かうのであった。


 ◇◇◇


 ユートがザイード達と接触した頃。ノアの村の西側にて


 エルウィンは村に到着した後、すぐに身を隠してバーカルが雇った者達が来るのを待っていた。すると程なくして人相が悪そうな集団がノアの村へと到着する。


「十五人か⋯⋯正直俺の実力では、倒したとしても五体満足ではいられなさそうだな」


 エルウィンは回復魔法で治るとしても、傷を負うことは好まない。

 そして彼が生まれた環境が関係しているのかわからないが、どんな手を使っても勝たなければ意味がないという考えがあった。


 そのため、普段なら一対十五という分の悪い戦いはしないが、今回は状況が違う。


「あのユートとかいう奴は面白いな。普通不意に投げられた銅貨を受け止められるか? しかも冒険者ギルドでは投げた三枚の銅貨の縁を斬ったらしい。こんなに面白い奴は滅多にいないぞ」


 エルウィンも剣を使っているため、ユートへの好奇心は止まらない。


「それにリリアちゃんはおそらく⋯⋯」


 エルウィンはポツリと呟くと困ったような表情をして、後頭部をかき始める。


「やれやれ⋯⋯どうしたものか」


 この状況でバーカルが雇った者達と戦うのは、エルウィンの心情からは外れる。そしてエルウィンが取った行動は⋯⋯


「お~い」


 友好的に手を振って、集団の元へ近寄ることであった。

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