第20話 尋問
「まず質問をする前に、伝えたいことがあります」
「なんだ?」
「これから同じ質問をあなたと仲間の二人にします」
「別に構わないぜ。おそらく同じ答えが返ってくると思うがな」
「そうですか。安心しました」
「どういうことだ?」
「もし三人の答えが一つでも違えば、処分しようと思っていましたから」
「しょ、処分だと!? どういうことだ!」
「あなたの想像通りですよ。三人の内、答えが違う人がいればその人は嘘をついているとみなし⋯⋯」
俺は右手で首を切る仕草をする。
「ひぃっ!」
盗賊は俺の行動を見て悲鳴を上げ、震え始めた。
昨日仲間が六人殺られている所を見ているんだ。嘘をつけばどうなるか容易に考えることが出来るだろう。
「言葉には注意して下さいね。俺が間違った解釈をしてしまうと大変ですから」
「わ、わかった⋯⋯本当のことを話す。だからもし他の二人と違った答えなら、嘘をついたのは俺じゃねえ」
「それはこちらで判断します。あなたが決めることじゃない」
そもそもこの縛り付けた状況でも、盗賊達のことは百パーセント信用することは出来ない。だから初めから一人ではなく三人を生かし、情報を精査することを考えていた。
「まずはどうやって脱走したのか答えて下さい」
「そ、それは⋯⋯」
盗賊の言葉が詰まる。
これは先程言っていた、牢屋が開いていたからという主張は、嘘だという可能性が高くなったな。
「無言があなたの答えでいいですか?」
「ち、違う! その⋯⋯衛兵が牢屋の鍵を開けて逃げたんだ」
「な、なんじゃと!」
盗賊の答えに村長さんが声を張り上げる。
「民を守る衛兵が盗賊を逃がしたのか! それにさっきと言ってることが違うぞ!」
「へへ⋯⋯こっちも命が惜しいんで」
もし本当に盗賊達が逃げたなら大問題だ。おそらくこっそり逃げて、俺達を始末すれば、問題ないと考えたのだろう。
「ただの衛兵が、盗賊を逃がすなんて大それたことをする訳がない。衛兵の裏に潜む人物がいるはず。それが誰か教えて下さい」
「それはわからねえ。俺達は外套で顔を隠した男から金をもらって命令されただけだ。声を聞く限りでは若い印象だった。本当だ! 信じてくれ」
「信じるかどうかは、他の二人の話を聞いてから決めます。それとノアの村の周辺で盗賊をしていたのも、その人の命令ですか?」
「なんじゃと!」
村長が驚くのも無理はない。盗賊達が誰かの命令で、ノアの村付近で暴れていると聞いたら、平静ではいられないだろう。
「よくわかったな。確かにその通りだ」
やはりか。盗賊を逃がすことが出来る権力者など限られている。そしてその権力者はノアの村を自分の物にしようとしていたから、自ずと答えは出てくる。
「き、貴様⋯⋯誰じゃ! 誰の命令か吐け!」
「く、苦しい⋯⋯やめろじじい!」
村長さんが怒りのあまり盗賊の首を締める。
「気持ちはわかりますが落ち着いて下さい」
俺は村長を羽交い締めにして、盗賊から離す。このままだと盗賊が窒息して死んでしまいそうだ。
「ぜはぜは⋯⋯ゆ、許せん。こいつらだけは絶対に許せん!」
まずいな。村長さんの怒りが限界突破している。このままだと話を聞くとごろじゃなくなってしまう。
「村長のわしが、天誅を食らわしてやるわ!」
「村長さん落ち着いて下さい! これ以上騒ぐならここから出ていってもらいます」
この村の問題で、リリアに害が及んでいるだ。仕方ないけど邪魔するなら、村長さんと言えど実力行使で行かせてもらう。
しかし俺の言葉が効いたのか、村長さんから力が抜けていく。
「ユートくんすまんな。暴れないから離してくれんか。わしは村長としてこの話を最後まで聞く義務がある」
どうやら平常心が戻ってきたようなので、俺は村長から手を離す。
よかった。これで話の続きが聞けそうだ。
「それで? どういうことだ?」
「最初は村の奴らに嫌がらせをする仕事だった。だがあんた達が村を出ていかないから、雇い主の命令も過激になってな。そしてとうとう今回は殺せという命令だったのさ」
「ノアの村の鉱石が目的だったのかな?」
「そこまでは知らねえ。俺達は怪しい奴から金をもらって命令通り動いていただけさ」
「そして今回また捕まったとしても、逃がしてくれることになっていたと」
「その通りだ。まあそれも今知られたからおじゃんになったけどな」
そうなると盗賊達をこのままロマリオの衛兵に渡すわけにはいかない。
「ユ、ユートくん⋯⋯今までの話から推測するに、まさかこの盗賊達に金を払っていたのは⋯⋯バーカルなのか?」
「おそらくは⋯⋯証拠は何もないありませんが」
外套の男もバーカルではないだろう。奴の部下といったところか。
「人の命を殺めてまで村を手に入れたいのか」
権力者という者は、自分さえ良ければいいと考えている者が大半だ。
恐ろしいのは、権力を得るために例え犯罪だろうが己が正しいと思い込んでいることだ。
こうなってしまったら余程のことがない限り、真人間になることは難しい。
「最後に一つ⋯⋯あんた達に恨みを持っている奴はいるのか」
「さあ? 俺達が奪い、殺した奴の知り合いならそう思っているかもな」
ひょっとしたら、盗賊達に恨みを持つ者が手紙をくれたのではと聞いてみたが、これではわからないな。
「後は残りの二人に聞いてみて、あんたの沙汰を下す」
とりあえず今聞いた情報が正しいか、他の二人に聞いてみないとな。
「俺は嘘をついてねえ! もし食い違いがあっても嘘をついたのはあいつらだ!」
そして俺は盗賊の叫び声を背に、捕らわれた残り二名の元へ向かうのであった。
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