第19話 夜更かしは辛い

「皆さん、終わりました」


 俺は月夜が照らす暗闇の中で声をあげる。

 すると村長を始めとする村の人達が現れた。


「さすがはユートくんじゃ」

「リリアは大丈夫ですか?」

「ああ、眠らないように頑張って起きているぞ」

「もう終わったと伝えてもらってもいいですか? 後、出来ればここには連れて来ないで下さい」


 地面にはの死体が転がっている。心優しいリリアにはこの光景を見せたくない。


「わかった。そのように伝えておこう。それでこ奴らはどうするんじゃ?」


 村長さんは失禁して気絶している、三人の盗賊を指差す。

 そう⋯⋯この三人は最初から命を奪うつもりはなかったため、あの時は地面を斬りつけただけだった。

 リリアを狙った制裁として、少し脅すつもりだったが、予想以上に上手くいったようだ。


「聞きたいことがあるので、別々の場所に監禁してもらってもいいですか?」

「別々の場所に? どうしてじゃ。聞きたいことがあるなら、同じ所にいた方が一度で済むじゃろ」

「確かにそうですが、少し考えがありまして」

「わかった。ユートくんの言うことなら間違いないじゃろ。後のことはわしらがやっておくから、とりあえず一眠りしたらどうじゃ?」

「わかりました。お言葉に甘えさせてもらいます」


 盗賊達はいつ目覚めるかわからないから、その方がいいだろう。

 こうして盗賊達を倒した俺は、リリアが待っている家屋へと戻るのであった。


「ユート様!」


 家屋のドアを開けた瞬間、リリアからの言葉が返ってきた。


「大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」

「大丈夫。傷一つないよ」

「良かったです⋯⋯お疲れ様でした」


 リリアはほっと胸を撫で下ろす。


「やっぱり昨日捕まえた盗賊達だったよ」

「そうですか⋯⋯どうしてここに来ることが出来たのでしょうか?」

「それはこれから盗賊達に聞いてみるよ。けど俺としては手紙の方が気になるかな」


 サレン公国に来たばかりで、知り合いがいない俺達に手紙を出す人物は誰か。皆目見当がつかない。


「やはりユート様に一目惚れした方が――」

「それはない」


 俺はリリアが言葉を言い終わる前に否定する。


「手紙の内容は色恋沙汰ではなかったし」


 しかしリリアの考えは俺の考えとは別の所にあった。


「違います。一目惚れと言っても容姿のことではなく、例えば冒険者ギルドで見せた剣技に対してとか⋯⋯」

「それは⋯⋯あり得るかもしれないけど」


 むしろそのこと以外で、ロマリオの街の人達との関わりはない。いや、そう考えると、イケメン男の銅貨を受け止めた時というのも考えられるか。

 その二つの出来事を見ていた誰かが盗賊達のことを知り、俺達に手紙をくれたのか?

 う~ん⋯⋯でも何かしっくり来ないなあ。明日盗賊達に聞いてみるか。


「とりあえず今は手紙のことを考えても仕方ないから、今日はもう寝ようか」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


 しかしリリア俯いており返事がない。


「ん? 何か様子がおかしいぞ」


 俺は下からリリアの顔を覗き込む。するとリリアの瞳は閉じられていた。


「寝てる⋯⋯だと⋯⋯」


 既に時刻は深夜なため、眠いのは理解出来る。


「まさか立ったまま寝るとは。器用なことをするなあ」

「すうすう」


 しかしこのままだと床に倒れる可能性があるし、疲れも取れないだろう。

 俺はリリアの脇と膝裏に手を添えて、お姫様だっこをする。

 そしてベッドへと運び、起こさないように優しく置いた。


「さて、俺も寝るとするか」


 それにしてもレガーリア王国に来てからトラブルの連続だな。一昨日は盗賊に襲われ、今日も盗賊に襲われた。

 明日は何も起きないといいな。

 俺は平穏な日々が来ることを願いながら、目を閉じるのであった。


 そして夜が明けた


 目が覚めると太陽は高い位置まで昇っており、昼食に近い時間となっていた。

 しかし昨日は盗賊退治で深夜まで働いていたから、仕方のないことだ。


「すうすう」


 隣を見るとリリアはまだ寝ていた。

 リリアは俺が戻るまで起きていてくれたから、疲れているのだろう。もう少し寝かせてあげよう。


 俺は静かにベッドから脱出し、外に出る。

 するとちょうど村長さんも自宅から出てきた所で、視線が合う。


「ユートくんおはよう」

「村長さんおはようございます」

「昨日は村を守るために遅くまでありがとう」

「いえ。それで盗賊達は目が覚めましたか?」

「ああ、じゃが二回連続で捕まったことがショックなのか、おとなしくしておるよ」

「それなら盗賊達と少し話してもいいですか?」

「かまわんよ。実はわしもさっきまで話を聞いていたが、言ってることがバラバラで何を信じればいいのか⋯⋯」

「大丈夫ですよ」


 やはり素直に応える気はないということか。

 だけどそれは想定内だ。正しい情報を得るための仕込みは既に済んでいる。

 俺は村長さんの案内で納屋へと向かうと、そこには縛られた盗賊の一人がいた。


「も、もう俺が知っていることは全て話したぞ。牢屋の鍵が開いてたから脱走した。それで捕まった恨みを晴らすために、ここに来ただけだ。もう二度とこんなことはしねえ。だからとっとと衛兵にでも突き出しやがれ」


 口調は悪いが、一応は反省しているように見えるが。


「この通り、特に逆らうことはなく、聞いたことに対して全て答えておる」


 だけど人は容易く高慢になり、反省することが難しい生き物だ。そう簡単に、盗賊達の言葉を鵜呑みにするわけにはいかない。

 だから真実を知るために俺は三人だけ生かしておいたのだ。


「では、俺からも聞きたいことがあるので答えて下さい」

「ああ、わかった」


 こちらの言うことに素直に応対している。

 だがこの後俺が放った言葉を聞いて先程とは裏腹に、盗賊は恐怖に震えるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る