第18話 手紙の内容は?

 ロマリオの街からノアの村に戻った翌日。

 辺りは静まり返り、就寝しているためかどの家からも灯りが消えていた。

 空には満月が輝き、暗闇の中でも僅かな光が届いていたため、視界は何とか確保されている状態だ。

 そのような最中、俺はノアの村の入口で気配を消しながら、ある者達を待っていた。


 さすがに深夜は冷える。

 俺は村長さんが用意してくれた毛布にくるまり、来るべき時を待っていた。

 少女の手紙の内容が正しければ、今夜何かが起こるはず。

 俺はそのことに対処するためにここで待っているのだが。


 そして村の入口で待機してから二時間程経った。

 そろそろ集中力が切れてきたと感じ始めた時、複数人の気配を感じた。

 かなりの人数がいるな。


「まさか深夜に襲撃されるなんて、考えてねえだろうな」

「いくら強くても寝ている時にやっちまえば問題ねえだろう」


 顔は判断出来ないが、口調でガラの悪い男だということはわかる。

 そしてこの声は聞いたことがあった。


「奴を殺したら村を燃やせとの命令だ」

「昨日いた女はどうするんだ?」

「もちろん俺達が楽しんだ後、奴隷商人に売っちまえばいいだろう。正気を保っていればな」

「「「ヒャッハッハ!」」」


 聞くに耐えない会話だ。しかもリリアを乏しめる内容だったため、俺の中の怒りがふつふつと湧き上がる。

 どうやら手紙の内容は本当だったようだな。


【咎人は天が月輪を示す時、黒闇に紛れて復讐者となり、再び罪を犯すだろう】


 この天の月輪は満月を表し、黒闇は夜の暗闇、復讐者となり再び罪を犯すとは俺達に恨みを持つ者。そして咎人とは⋯⋯


 男達は徐々に村へと近づいて来る。

 俺は木の陰で息を殺し、男達が通りすぎるのを待った。


 よし、いまだ!

 俺は剣に魔力を込める。

 対人戦で大切なのことは二つあり、一つは純粋な戦闘の技量で、もう一つが魔力になる。

 魔力を込めることによって、武器の切れ味や耐久性が上がり、さらには特殊な攻撃を行うことも出来る。それは各個人が持つ魔力の質によって作用されるため、その攻撃方法は様々だ。

 しかし特殊攻撃は誰にでも出来るものではなく、ある一定の魔力量を持つものに限られる。そして魔力を武器に伝えて戦うものは、魔力を持って戦う闘士⋯⋯魔闘士と呼ばれている。


 命を奪う気はなかったので、魔力を使っての攻撃はやらなかったが、今回は違う。


 俺は背後から気配を消しながら男達に襲いかかる。


 まずは後ろから心臓を一突き、そして二人目、三人目は横一閃に首を跳ねた。

 男達は一瞬のうちに絶命し、声を出すことなく地面に崩れ落ちる。

 これで残るは六人。


「あっ? なんだ?」


 そしてまだ状況が飲み込めてない内に、さらに二人の首を斬り落とす。


「な、何が起きた!?」

「てめえは昨日の!」


 仲間が五人殺られた時になって、ようやく男達が俺の存在に気づく。

 だがもう遅い。

 残りの四人は、まさか自分達が逆に奇襲をかけられているとは思っていなかったようで、臨戦態勢が取れていない。

 だが無理もない。暗闇の中、一瞬で仲間達が絶命し、今まさにその死神の鎌が自分に向けられているのだ。

 しっかりと訓練をし、経験を持った強者ならともかく、に、そのような技量はないだろう。


 そう⋯⋯今俺の前にいるのは昨日リリアを襲った盗賊達だ。

 どうやって逃げてきたのか何となく想像はつく。しかし今はそのことを考えるより、村を襲撃しに来た盗賊達を無力化するのが先だ。


 そして盗賊が慌てふためいている間に俺は剣をなぎ払う。すると盗賊の一人の首から大量の血が舞う。これで残るは三人となった。


「ひぃっ!」

「わ、わかった! もうノアの村には手を出さねえ! だから見逃してくれ!」


 盗賊達は歯向かうことが無駄だとわかったのか、両手を上げて命乞いをしてきた。

 昨日素手の相手に負けたんだ。不意打ちをつくならともかく、真正面からやり合うとどうなるか、わかっているのだろう。


 だが俺は許さない。


「お前達は一度ならず二度までも、リリアを危険に陥れようとした。その罪を許すわけにはいかない」


 俺は殺気を込めて、盗賊達に接近する。


「お、お許しを!」

「俺達は頼まれたんだ!」

「本当はやりたくなかったけど、生きていくためには仕方なく⋯⋯」


 盗賊達が何を言おうが俺は足を止めない。

 すると盗賊達は恐怖で足が凍りついたのか、地面に尻餅をついてしまった。


「た、頼む! 命だけは助けてくれ!」

「あなた達はそうやって命乞いをしてきた人を、助けたことがあるんですか?」

「そ、それは⋯⋯」


 盗賊なんてやっているくらいだから、人の命を理不尽に殺めたことがあると予想していたが、やはりか。


「それならあなた達がしてきたことを、そっくりそのまま返しても問題ないですよね?」


 俺は剣を天高く構える。


「や、やめろ!」

「これからは心を入れ換える!」

「だから俺達にチャンスをくれ!」


 盗賊達は涙を流し、完全に戦意が喪失していた。


「地獄で罪を償うがいい!」


 しかし俺は盗賊達の言うことを無視して、力強く剣を振り下ろす。


「「「ぎゃあぁぁぁっ!」」」


 すると盗賊達は断末魔に近い声を上げて、その場に崩れ落ちるのであった。

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