第14話 初めての冒険者ギルド

「なんじゃと! そのようなバカな話があるか!」


 俺達はバーカル達と別れた後、ロマリオの冒険者ギルドに到着した。

 そして村長が受付に行き、盗賊の引き渡しを行っているが、何故か怒鳴り声が聞こえてきたので、俺も受付へと向かう。


 優しい村長がまたしても怒りを露にするとは、何だか嫌な予感しかしない。


「村長さん。どうしましたか?」

「ユートくん聞いてくれ。この受付の者⋯⋯マンソンが、ユートくんが盗賊を捕まえたことを信じてくれないのじゃ。そしてこともあろうに、誰かが捕縛した盗賊を掠めとり、自分達の手柄にしていると言ってきよった」

「俺はそんなことしてませんよ」

「あなたのような若い方とノアの村にいる老人達で、盗賊が捕まえられるはずがない」


 とんでもない言いがかりだな。まさかとは思うけどこれもロマリオ代表の嫌がらせなのか?


「とりあえず盗賊達はこちらで預かります。ですが不正行為を行った可能性があるため、報償金はお渡し出来ません」

「そんなバカな話があるか! 責任者を出せ!」

「生憎ギルドマスターは席を外しておりますので、私が代理の責任者となります」

「お主のような小僧が? 話にならんわ!」

「でしたらお引き取りを。私の判断が気に入らないのなら別の冒険者ギルドへ行ったらどうですか?」

「隣街の冒険者ギルドまで、三日もかかるのをわかってて言っておるじゃろ。腹が立つ奴め!」


 盗賊を捕まえて報償金を渡さないなどありえない。

 だけどこのまま話し合っても、マンソンは折れないと思う。

 そもそもこの人は俺の実力を疑って、難癖をつけてきているのだ。

 だったら実際に実力を見せてやればいい。


「俺に盗賊を捕まえるだけの技量があればいいってことですか?」

「そうですね。だけどそれをどうやって証明して見せますか? あなたが高ランクの冒険者ならそれが証明になりますけど」

「残念だけど冒険者ギルドには所属していません。だからそれは不可能です。代わりにここにいる誰かと戦って見せましょうか?」


 それが一番手っ取り早い方法だろう。高ランクの者に勝てばマンソンも文句は言えないはずだ。


「申し訳ないが、今ここには低ランクの冒険者しかいません。そのような者に勝った所で、技量を示すことは出来ませんよ」


 高ランクの者がいないのは本当か? 冒険者ギルドがバーカル代表の味方なら何を言っても否定されそうだ。

 だったら一人で、圧倒的な技量を見せつけるしかない。


「それならここに銅貨が三枚あります」


 俺は先程赤髪イケメン男からもらった、三枚の銅貨を取り出し見せる。


「これを同時に上に投げて、地面に落ちる前に斬ってご覧にいれましょう」

「銅貨を斬る⋯⋯だと⋯⋯」

「ええ」

「そこそこの剣の技量があれば出来そうな気がしますけど。ですがその程度のことも出来なければ、盗賊を捕まえる技量がなかったという証明にはなりますね」


 なるほど。なかなか嫌な言い回しをするな。


「ユートくん! こ奴は例え銅貨を斬ったとしても、揚げ足を取るつもりじゃ! その程度のことが出来た所で、盗賊を捕まえる技量があったとは認められないと。そして逆に失敗したら、盗賊を捕まえたことを認められないと難癖つけるつもりじゃ!」


 村長の言う通りだ。

 マンソンにとっては、銅貨を斬られても問題ないという訳だ。


「村長さん、きっとユート様には何かお考えがあるはずです。ここは信じて見守りましょう」

「わ、わかった。リリアさんがそう言うなら」


 騒ぎになっていたせいか、どうやらリリアもこちらに来ていたようだ。

 俺はリリアに向かって大丈夫だと頷いてみせる。

 リリアの信頼を裏切らないためにも、必ず成功させるぞ。


「投げた銅貨を三枚斬る⋯⋯か」

「そんなこと出来るのか?」

「大きな声じゃ言えないが、俺はBランク冒険者だがそんなこと出来ないぞ」


 周囲の冒険者から声が聞こえる。

 確かBランクから盗賊討伐の依頼が受けられると、どこかで聞いたことがある。

 それなら銅貨三枚を真っ二つにすれば問題ないはずだ。それと高ランクの冒険者はいないと嘘をついたな。

 マンソンに対して腹立たしい気持ちになる。しかし今は頭の中の雑音を全て排除し、銅貨を斬ることに集中する。

 斬ることが出来ると豪語したけど、これは俺に取って難易度の高い事例だからだ。


 俺は右手に剣を左手には三枚の銅貨を握った。

 そして目を閉じて深呼吸をして、外界からの情報を遮断する。


 周囲の人達はこちらに視線を向け、辺りには静寂が訪れた。


 集中しろ。剣を振る右手に⋯⋯銅貨の軌道を把握する目に。

 大丈夫。似たようなことは何度かやったことがある。きっと上手くいく。成功するイメージだけを持て。


 俺は左手にある銅貨を上空へと投げる。

 銅貨は綺麗な回転をしながら真っ直ぐ上に舞う。

 そして最高到達点に達した銅貨はゆっくりと落下してきた。


 後は右手に持った剣で斬るだけだ。

 俺は剣を銅貨へと振り下ろす。


 しかしこの時予想外のことが起きた。


「あっ!」


 突然マンソンが大きな声を上げたのだ。

 ――くっくっく。これで失敗したも同然だな。バーカル様からノアの村の奴らには絶対に金は払うなと言われている。これで失敗したことを理由に、盗賊達だけ引き取ればいいだろう。

 マンソンはユートに失敗させるために、わざと声を出したのだ。


 そしてこの場にいた誰もが成功はしないと思って⋯⋯いや、一人だけこの状況でもユートを信じている者がいた。


「さすがはユート様です」


 リリアの褒め称える声と共に、床には六つの銅貨が転がっていたのであった。

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