第13話 バーカル

「お、お主は! バーカル代表!」


 村長さんが苦虫を噛み潰したような顔をして、怒気を含んだ声を放つ。

 優しい村長さんがここまで嫌悪感を示すなんて、ただ事ではない相手のようだ。


「あの人は誰ですか?」


 俺は村の人に、バーカルと呼ばれた人が誰なのか問いかけた。


「ああ、あれはこのロマリオの代表をしているバーカルさんだよ」

「村長さんと仲が悪そうですね」

「それは⋯⋯ノアの村をロマリオの街に取り込もうとしているからね」


 ノアの村を取り込む?

 今の村の現状を見れば、悪い話ではないように思える。

 そうすればロマリオの街の支援を受けて、村の人達の生活は今より良くなる気がするけど。


「何か問題があるのですか?」

「問題ない⋯⋯と俺も最初は思ってたよ。だけどバーカルさんは村長が中々首を立てに振らないことに業を煮やし、色々嫌がらせをしてきたんだ」

「嫌がらせですか?」

「そうだ。バーカルさん元々商人なんだが、その時のコネを使って行商人がノアの村に行かないようにしたんだ」


 村長さんはロマリオの街に来る際に、いつも魔物に襲われると言っていた。そのような中、わざわざ来てくれる行商人はありがたい存在だっただろう。


「それと品物を買う時は他より高く設定したり、逆に売る時は安く設定したりと姑息なことをされてな」


 そのようなことをされれば、益々ノアの村は衰退していくな。


「ロマリオ側がノアの村を取り込むメリットはあるのでしょうか?」

「それがあるんだよ。そのことがわかっているから俺達も受け入れられないんだ」

「それは⋯⋯」


 俺はその理由を聞き出そうと問いかけるが⋯⋯


「嫌だ嫌だ。田舎臭いにおいがロマリオに蔓延してしまう。早く街から出ていってほしいものだ」

「その田舎臭い村を手に入れようとしているのはどこの誰じゃ。しかも資源が発見されたことを黙ってるとは、卑劣極まりない」

「くっ!」


 資源? ノアの村には何かの資源があるのか。


「三ヶ月前に地震があって、ノアの村の領土内に洞窟が出来たんだ。その洞窟内には様々な鉱石が眠っていて、バーカル代表は独り占めしようとしたってわけさ」

「それは納得出来る話じゃないですね」


 だけど鉱石があるならそれを掘り起こせば、若い村人達は出稼ぎに行かなくても済むのでは?

 俺が疑問に思っている間に、村長とバーカル代表の話はさらにヒートアップしていた。


「今日は盗賊を捕縛したので、冒険者ギルドに来ただけじゃ!」

「盗賊⋯⋯だと? バカな⋯⋯ノアの村奴らにそのようなことが出来るわけない」


 ん? なんだかバーカルが狼狽えているように見えるが気のせいか?


「嘘だと思うなら馬車の中を見てみるがいい」


 バーカル代表は慌てた様子で、馬車の天幕を捲る。

 すると驚いた表情を浮かべ、ワナワナと震えていた。


「ま、まさかノアの村にそれ程の実力者がいたとは⋯⋯」

「旅の方が捕まえてくれたんじゃ! とにかくこ奴らをギルドに引き渡しに行くからそこをどいてくれ」


 バーカル代表は茫然自失といった感じで、ゆっくりと道を開ける。

 何だか怪しいな。まさかとは思うけど⋯⋯いや、街の代表たるものが盗賊達を使って、ノアの村の人達を追い出そうとしているなんてするわけないか。

 だけどリリアの安全を守るためには、どのような些細なことも見逃す訳には行かない。俺の中でバーカルに対する警戒心が上がった。


「さあ、邪魔者は消えた。冒険者ギルドへ行くぞ」


 そして俺達は馬車と馬を進ませるが、衛兵達の中に一人だけ冒険者のような服を着ている者がいた。

 赤いサラサラの髪に、整った容姿。男の俺から見てもカッコいいと思う。顔だけ見ると貴族っぽい感じもするな。


「あの人は冒険者かな?」

「そうかもしれませんね」

「イケメンって奴だな」

「イケメン? それってなんでしょうか?」


 リリアは国に管理されていたせいか、イケメンを知らないらしい。


「カッコいい人って意味だよ」

「ふふ⋯⋯それでしたらユート様もイケメンです」

「いや、そんなことないよ」


 お世辞だと思うけどリリアの言葉に照れてしまう。

 俺は少し顔を赤くしたまま、イケメンの横を通り過ぎる。だがこのまま何事もなく立ち去ることは出来なかった。

 何故なら突如背後から僅かな気配を感じたからだ。

 俺は直ぐ様後ろを振り向くと、何かが顔に飛んで来るのを感じた。


「くっ!」


 何だ!? 小さな茶色い物が3つ!?

 俺は咄嗟に手を出して受け止める。


「ほう? この距離で受け止めるとは。盗賊を倒したのはあんただな?」

「さあ? それよりいきなり物を投げつけるなんてひどいじゃないか」


 こいつ⋯⋯俺を試したな。

 とりあえず突然無礼なことをされたので、素直には答えてやらない。


「悪い悪い。代わりにそれは迷惑料としてやるよ」


 イケメンの男は言葉では謝罪しているが、感情が込もっておらず、悪びれた様子がない。


「迷惑料とはどういうことでしょうか?」

「これのことを言ってるみたい」


 俺は手のひらで受け止めた物をリリアに見せる。


「銅貨が三枚⋯⋯ですね。いつお受け取りになったのですか?」

「わしらも何が何だか⋯⋯」


 俺の前にいたリリアはわからなくてもしょうがないが、後ろにいた村長さんや村の人も、イケメンの行動が見えていなかったようだ。


 正直リリアに当たったらどうするんだ! と問い詰めたい所だけど、ここは俺達にとってアウェイ。下手に騒ぎを起こせば不利になるのはこちらの方だ。

 街の代表であるバーカルも、ノアの村を貶める材料を見つけようとしているしな。

 癪だけど、ここはイケメンの謝罪を受け入れるしかないか。


「次に投げる時は金貨で頼むよ」

「はは⋯⋯金があったら白金貨を投げてやるよ」

「それなら次があることを期待してる」


 よりによって白金貨か。

 一枚あれば一生遊んで暮らせるぞ。


「バーカルさんよ。とりあえず迂闊に手は出さない方がいいみたいだぜ」

「し、仕方ない。今日の所は見逃してやる。だが用が済んだら早々に立ち去るがよい」


 俺達は、バーカルの負け犬の遠吠えを聞きながら、冒険者ギルドへ向かうのであった。

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