第12話 聖女と恋人?

 ◇◇◇


 俺達は聖女について話した後、村長の家へと向かった。


「おお⋯⋯ユートくん、リリアさん。準備は出来ましたか?」

「はい」


 そして俺達は村長と数人の村人と共に、馬車に乗せた盗賊達を連行するため、近くにあるというロマリオの街に向かっていた。

 ちなみにリリアは俺と一緒に馬に乗っている。

 しかし朝早く起きたせいか、馬のリズムが心地好いのかウトウト船を漕いでいた。


「それにしても君達が来てくれて助かったよ」


 御者をして馬を操っている村長さんが、嬉しそうに問いかけてくる。


「どういうことですか?」

「魔物じゃ。もし君達がいなかったら、魔物が来る度に逃げなくてはならない。しかも今は盗賊という重い荷物を持っているから、無事に逃げられるか心配じゃった」

「もし魔物が襲ってきても俺が退治するので任せてください」


 だけどリリアの聖女の力で、魔物が寄って来ない可能性がある。

 これは聖女の力がどの程度影響があるのか、見極めることができるかもしれないな。


「それにしてもお二人はどういう関係なんじゃ? 見たところお若いし、このようなさびれた村に用があるわけではあるまい」

「え~と⋯⋯」


 なんて答えるべきか、レガーリア王国の聖女と準男爵ですなんて言えないし、どうしたものか。


「普通に考えると恋人同士といった所かのう」


 こ、恋人! まあ確かに若い男女が旅をしていればそういう考えにもなるか。


「いえ、それは⋯⋯」


 俺が村長さんの問いに答えようとした時、思わぬ所から声が上がる。


「しょのとおりでしゅ⋯⋯わたしと⋯⋯ゆーとしゃまは⋯⋯ていじゅうしゃきをしゃがすために⋯⋯たびをしていましゅ」

「なっ!」


 リリアは寝ぼけているのか、とんでもないことを言い始めた。


「なるほど。そうじゃったか! 二人さえ良ければ、いつまでもあの家に住んでくれて大丈夫じゃ」

「あ、ありがとうございます」


 リリアの予想外の言葉によって、住む家を手に入れてしまった。だがこれで今さら恋人じゃないと言えなくなったな。


「すうすう」


 リリアはこちらの思いも知らず、また夢の中に旅立ってしまう。


「まさか許されぬ恋というやつか」

「二人で愛の逃避行⋯⋯くう! 泣けるじゃねえか!」

「役に立たないかもしれないが、困っていることが遭ったら相談に乗るぜ」


 村の人達も俺達を温かい目で見ている。

 こ、これは益々恋人じゃないとは言えなくなったぞ。後でリリアが起きたら口裏を合わせておかないといけないな。


 こうして俺達は村の人達の優しさに心を痛めながら、サレン公国で生活していく家を手に入れ、ロマリオへと進むのであった。


 四時間程馬に揺られていると、前方に幅広く続く、城壁のようなものが見えてきた。

 そして疲れが取れたのか、リリアが両手を天に伸ばして目を覚ました。


「う~ん⋯⋯ここは⋯⋯」

「もうすぐロマリオの街に着くよ」

「えっ? ロマリオにはお昼頃到着すると聞いていましたが⋯⋯もしかして私は四時間程寝ていたのでしょうか」

「え~と⋯⋯そうだね」


 嘘を言ってもしょうがないのでここは真実を述べる。するとリリアの顔が徐々に赤く染まってきた。


「は、恥ずかしいです⋯⋯ユート様に寝顔を見られてしまいました」


 いや、寝顔なら昨日一緒に寝て見させてもらったから。

 だけど事実を述べれば、さらにリリアが恥ずかしい思いをしてしまいそうなので、指摘しない。


「ユート様、そして皆様も申し訳ありません。私だけ寝てしまって⋯⋯」

「いいんだよ。疲れていたんだろ」

「リリアさんは苦労してきたんだ。気にしないでおくれ」

「あ、ありがとうございます」


 村の人達が生温かい目で優しい言葉をかけてくれたからか、リリアは少し驚いていた。


「えへへ⋯⋯皆さんとても優しいです」

「そうだね」


 これは何で村の人達が優しいかわかってないな。やはり恋人発言をした時のリリアは寝ぼけていて、何があったか覚えていないようだ。


「それにしてもリリアさんが安心して眠れるくらい、安全な旅じゃったな」


 村長の言う通り、ノアの村からここまで、魔物には一匹も出くわしていない。


「じゃがまさか一回も魔物に出会わずに、ロマリオに来ることが出来るとは。こんなことは初めてじゃ。村の畑からも突然芽が出てきたことを考えると、もしやこの辺り一帯で⋯⋯何かの前触れかもしれん」


 す、鋭い。

 たぶんだけど、これはリリアの聖女の力で間違いないだろう。

 俺とリリアは、村長の言葉に目をそらしてしまう。


「村長さんよ。別に悪いことが起きてる訳じゃないから、気にしないでもいいんじゃないか?」

「そうだぜ。あんまり考え過ぎると夜眠れなくて、昼間に眠くなっちまうぜ」

「それってもしかして私のことですか!?」

「「「ハッハッハ!」」」


 村人達の笑いで村長の重苦しい言葉が吹き飛ぶ。

 リリアもネタにされたのに、何だか楽しそうだ。


「そうじゃな。考えても仕方ない。まずはこの盗賊達を無事に衛兵に渡すことから考えるとするか」


 そして俺達は門を潜り抜け、街へと入る。

 すると街の人達の姿が目に入ったが、どこか活気がないように見える。いや、レガーリア以外の国ならこれが当たり前の光景なのか?

 俺も剣の修行の旅で、王国内のいくつかの街に行ったことがあるけど、どこの街も人の波で混雑しており、道端には露店が溢れていて店主の呼びかけで賑やかな雰囲気だった。

 そして何よりレガーリア王国との違いは、この街の人達からはほとんど笑顔が見られない。


 ノアの村を見ても思ったが、これが他国の現状なのか。

 俺はリリアに視線を向ける。

 リリアも俺と同じ思いなのか、神妙な顔をしているように見えた。


「おやおや。我が街に乞食が入ってきたと報告があって来てみたが、まさかノアの村の村長さんとは思いませんでした」


 突然前方より、身なりの良い太った中年と衛兵達が現れ、こちらに向かって暴言を吐いてきた。

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