第11話 玉座の間にて

 ◇◇◇


 ユートが聖女について聞いていた頃、レガーリア王国の玉座の間にて


「ライエルよ。公の場で聖女との婚約を破棄し、追放したと聞いたがそれは真実か?」


 玉座に座るのはアルガスト・フォン・レガーリアだ。

 中年で太った体躯を持ち、お世辞にも威厳のある王には見えない。


「はい。奴は魔法で治療した相手に対して多額の金を要求していました。そのような李卑しい者は王家に相応しくありません」


 ライエルは王の前で膝をつき、婚約破棄に至る経緯を説明する。


「しかしライエル様。聖女といえば国を守護する者。何か災いが起きなければいいですが⋯⋯」


 ライエルに意見する者は、王の横に立つ宰相のリシュア。その政治手腕は高く評価されており、実質レガーリア王国を動かしているとさえ言われている。


「俺としては聖女の追放に賛成だぜ。この国が唯一他国に劣ることが何かわかるか? 宰相さんよお」


 筋肉質で粗暴な男、冒険者ギルドのマスターであるダグランが荒々しい声で問いかける。


「我が国は資源が豊富ですが、魔物の素材だけは他国から輸入しています」

「その通りだ。聖女様って奴は魔物を遠ざける力を持っていたんだろ? それが本当ならこれからはレガーリアにも魔物がバンバン来るわけだ。俺達は依頼料金が手に入り、おたくらは魔物の素材を国内で回すことが出来る。一石二鳥じゃねえか」

「おお、頼もしい言葉だ。さすが我が国を拠点としているギルドマスターだ」


 アルガスト、ライエル、ダグランは聖女追放に賛成の意を示す。


「しかしアルガスト陛下⋯⋯公にはされておりませんが、聖女は魔を退け、大地に恵みを与え、人々に祝福をもたらすと言われています。魔に関してはダグラン殿に任せるとして、大地の恵みや人々への祝福をどうなさいますか? 伝承が本当ならば、我が国の資源に影響が出るかもしれませんぞ。リリア様を追放するにしても、聖女の力について今一度調査してからでも遅くはないかと」


 楽観的な意見が漂う中でただ一人、宰相のリシュアだけは、聖女追放について慎重に行動すべきと提言する。


「むう⋯⋯確かに宰相の言うことにも一理ある。ここは聖女を辺境に幽閉し、王都にどれだけ影響が出るか調べるべきか⋯⋯」

「父上! レガーリア王国は今まであの女に⋯⋯いや、あの女の一族にどれ程の労力を費やしてきたか。警備費や生活費など多くの無駄金を使わされています。その金は聖女のために使うより、王家に使われる方が余程有意義でしょう」

「リリア様は高位の魔法が使える貴重な存在でもあります。例え聖女の力がなくとも、我が国にいていただく意味はあります」

「あの女と同等レベルの魔法使いは他にもいる。いなくとも問題はない」


 宰相とライエルが真逆の意見を進言する。

 そしてアルガストの出した答えは⋯⋯


「ライエルの言う通りだ。これからは聖女に宛がわれた金は、王家のために使うとしよう。聖女との婚約破棄は王の名の元に認める」

「お待ち下さい! これは国家にかかわる重大な案件です。陛下、今一度お考え直し下さい」

「ええい! 黙れリシュア! そもそも伝承など大概時の流れと共に、都合がいいように書き替えられているものだ。ありもしない力にすがるなど、国家の重鎮である宰相の言葉とは思えんな」

「ですがライエル王子」

「くどいぞ! 父上も認められたのだ! それに伝承が本当だったとしても、いつまでも個人の力に頼るのは国としてどうかと思うがな。リシュアは聖女が死ぬ時は王国も死ねというつもりか?」

「いえ、そのようなことは⋯⋯」

「ならば話はこれで終わりだ」


 こうしてリリアの婚約破棄と追放については、正式に国としても認めることとなった。だがこの時の決断が、後に国家を揺るがすことになるとは誰も気づいてはいなかった。

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