第10話 聖女の力

「言える範囲でいいから、聖女について教えてくれないか」

「聖女についてですか?」

「国家機密だと言うのはわかっているけど、これからリリアと一緒にいるために、どういう効力があるか把握しておきたいんだ」


 レガーリア王国は聖女の有用性について、詳しく発表していない。

 一般的に言われていることは、聖女は国の守護者だということ。そしてこれは実際に体験したことだけど、失くした腕を治す高位の回復魔法を使えるということだ。

 後、これは憶測だけどレガーリア王国は、魔物の数が少なかった。これもおそらく聖女の力が関係しているように考えられるが。


「ふふ⋯⋯ユート様もおかしなことを仰いますね。私はもうレガーリア王国を追放された身、国家機密なんて関係ありませんわ」

「た、確かにそうだね。それじゃあ聖女について教えてくれるかな?」

「私にわかることでしたら、何でもお答えします。それでは初めに、何故聖女が生まれたかお話しします」


 聖女の紀元か。考えたこともなかった。

 けどよく考えてみれば、突然そのような特別な能力を持った人が現れるわけないよな。しかもその能力は子に引き継がれているし。


「遠い遠い遥か昔、この大陸は魔物によって滅ぼされかけていました。そしてこの現状を憂いた女神セレスティア様が、一人の人間にご自分の力の一部を授けたと言われています」

「それが聖女様?」

「はい。聖女は女神様から授けられた力を使って魔物を封印し、その力は代々受け継がれるようになりました」

「ん? ちょっと待って。子供が必ずしも女の子って訳じゃないよな。そうなると聖男? いや聖者と呼ばれる人もいたってこと?」

「いえ、聖女が子を成す時、最初の一人目は必ず女児が生まれ、その女児に聖女の力が宿るようになっているようです」

「なるほど。例えばリリアと俺が結婚したら必ず女の子が生まれて、その子が聖女になるというのとか」


 最初の子供の性別が限定されるなんて。何だか見方を変えると呪いのようにも感じるな。


「それで、聖女は具体的にとんな力を持っているんだ」

「⋯⋯⋯⋯」


 しかしリリアからの返事がなく、何故かわからないが顔を真っ赤にさせていた。


「リリア? もしかして熱でもあるのか?」


 急激な環境の変化についていけず、体調を崩した可能性があるな。

 俺は熱があるか確認するため、リリアの額に手を添える。


「ひゃあっ!」


 しかしリリアは突然悲鳴を上げて、すごい勢いで後退ってしまった。


「ご、ごめん!」


 反射的に謝罪の言葉を口する。

 いくら心配だからといって、女の子に触れるなんて失礼だったよな。

 俺は無意識に出てしまった行動に反省する。


「いえ、大丈夫です。それと熱もありません」

「だけど顔が赤いぞ」

「そ、それはユート様が私との子供なんて仰るから⋯⋯」


 リリアはブツブツと何か言っていったが、声が小さかったのでよく聞こえなかった。


「えっ? 何?」

「な、何でもありません! そ、それで聖女の能力ですが⋯⋯魔を退け、大地に恵みを与え、人々に祝福をもたらすと

「⋯⋯そうなるとやっぱりトマトの芽は⋯⋯」

「聖女の力だと思います」

「経った一日で⋯⋯いや、半日で効果が出るなんてリリアは凄いな」

「そんな⋯⋯私なんてただお母さんから能力を受け継いだだけですから」


 リリアは謙遜しているが、これはとんでもないことだ。なぜ王国がその力を管理していたかがわかる。その能力を他国に知られたら、誘拐されてしまいそうだな。

 だがそれならどうして王国はリリアを追放したんだ?

 王族は聖女の力を理解していなかったのか? それともライエル王子が無能だったのか、もしくは長い間平和だったから聖女の力に疑問を持ち、なぜ王国が繁栄出来ているか忘れてしまったのだろうか。

 だけどこれまでの話を聞いて、一つだけわかったことがある。


「リリアは聖女の力を意識して使ってないのかな?」


 聖女の力を聞いた時に、と曖昧な表現をしていた。もし意図して使っているなら断定して話すはずだ。

 それに昨日リリアに会ってからずっと一緒にいたけど、何かをしている様子はなかった。まあ俺と出会う前か、寝ている時に何かした可能性もあるけど。


「⋯⋯その通りです。私はまだ聖女の力を使いこなせていません」

「それってどういうこと?」

「聖女はそこにいるだけで、効果を発揮すると聞いています」


 リリアは半日で村の畑を復活させたけど、これ以上の力があるというのか。


「ですがその方法を知る前に、母は亡くなってしまったので⋯⋯」

「そうなんだ」

「一応ヒントのようなものはお聞きしたのですが⋯⋯」

「それは聞いてもいいのかな?」

「はい。ただ私もわからなくて⋯⋯母が言うには、聖女の真の力は人に言われてわかるものではなく、自分自身で気づかないと意味がないと」

「う~ん⋯⋯なんだろうね」


 抽象的な言い回しで俺にはよくわからない。何か他にヒントであればいいけど⋯⋯


「聖女の真の力を解放する方法はわからないけど、レガーリア王国は聖女の力を失ってこれから大変だろうね」

「どうでしょうか⋯⋯私自身、聖女の力にどれくらいの効果があったのかわかっていませんし」


 いや、半日で大地を甦らせた聖女の力が小さいはずがない。だけど自分達の手でリリアを追放したのだから、自業自得だ。

 そしてこの後、俺の予想通りレガーリア王国では徐々に異変が起き始めるのであった。

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