第5話 五年越しの再会
◇◇◇
俺は馬を急ぎ走らせていると、前方に何人かの集団が見えた。
「あれは⋯⋯リリア様!」
リリア様は柄の悪い男達によって両腕を掴まれている。
出来ればサレン公国の人達とは揉めたくはないけど、あの身なりからしておそらく関所の兵士が言っていた盗賊だ。
それに誰であろうとリリア様の窮地なら、助けることに躊躇いはない。
「リリア様から離れろ!」
威喝すると、この場にいる者達の目がこちらへと向けられる。
「あなた様は⋯⋯いたっ!」
リリア様はこちらに走りだそうとするが、盗賊達に掴まれているためその行動は阻止されてしまう。
「逃がさねえぞ! これほどの上玉を誰が渡すか!」
今の言葉で理解した。やはりこいつらは盗賊で間違いなさそうだ。
ならばここは荒っぽく行かせてもらう!
「お、おい! 止まりやがれ!」
馬が停止することなく突っ込んでくるためか、盗賊達は動揺している。
「こいつがどうなってもいいのか!」
盗賊達が喚き散らしているが、もう遅い。
俺は馬から飛び降り、そのままの勢いでリリア様の腕を掴んでいる盗賊二人に飛び蹴りを放つ。
「ぶべっ!」
「ぎゃあ!」
蹴りを食らった盗賊達は醜い声を上げながら、後方へと吹き飛んだ。
そして俺は着地と共にリリア様を抱き寄せる。
「リリア様、下がってください」
「は、はい」
俺はリリア様を守るように盗賊達と向き合う。
「何だてめえ! 俺達に手を出すなんて良い度胸してるじゃねえか」
盗賊達は俺を明確な敵と認めたのか、次々と腰に差した剣を抜いていく。
残るは七人。
リリア様に手荒な真似をしたことに対して怒りが沸いてくるが、いくら盗賊とはいえ、他国に来たばかりで命を奪うのはまずい。
俺は背中にある剣は使わず、素手で対応することにした。
「その背中の剣は飾りか? お前俺達を舐めてんのか? それともビビってんのか?」
どうやら盗賊達は、俺の見た目が十五の小僧だということで、油断しているようだ。
それならこちらに取っては好都合。俺は前方にいる三人対して距離を詰める。
「なっ!」
「速い!」
盗賊は驚きの声をあげるがもう遅い。
俺は盗賊の顎を目掛けて拳を振り抜き、脳を揺さぶる。
すると三人の盗賊は糸が切れた人形のように、その場に崩れ落ちた。
「こいつ! ただのガキじゃねえぞ!」
「全員でかかれ!」
盗賊達は仲間がやられたことによって本気になったようだ。
「死にやがれ!」
二人の盗賊が一撃で仕留めるつもりなのか、俺の首を狙って剣を横一閃になぎ払う。
だが焦っているのか大振りなため、俺は前進しながら身をかがめ、剣を避ける。
そしてすれ違い様に、顎に拳を放つと二人の盗賊はその場に倒れた。
「これで残るは二人」
俺は敵の数が少なくなったことで、一気に勝負をかける。
こちらから残りの盗賊に接近して、これまでと同じ様に顎に拳を放つ。すると盗賊達はあっけなく地面に倒れ、この場に立っているのは俺とリリア様だけとなった。
「あの⋯⋯」
「リリア様、大丈夫ですか」
とりあえずこれでリリア様の安全は確保出来た。けれどリリア様に取っては俺は素性がわからない男。まずは俺が味方だとわかってもらうために、話をしなければ。自己紹介もしていないし、五年前に少しだけあった男なんて覚えていないだろう。
しかしこの後、リリア様から予想外の言葉をかけられる。
「ユート様、ありがとうございました」
「えっ?」
「えっ?」
いや、驚きたいのは俺の方だ。
「ユート様?」
「何故俺の名前を知っているのですか?」
「王国の武闘祭で優勝された所を見ていましたから」
「あっ! なるほど。そういうことですか」
俺が優勝した武闘祭は、王国でもそこそこ有名な大会だ。リリア様が知っていてもおかしくない。
だけど行動に制限があるリリア様が、武闘祭を見ていたのは少し意外だ。
「他にも存じていますよ。年齢は十五歳と百五十二日、右利き、好きな食べ物は卵焼きです」
「く、詳しいですね」
「それは⋯⋯五年前にお会いしていますから」
確かに五年前に会って回復魔法をかけてもらったけどそれだけだ。その時は名前も名乗っていない。
「それにユート様は、何度か教会の炊き出しを手伝われていたので」
まさかそこまで見てくれていたとは思わなかった。
「初めてお会いした時、名前も名乗らずに申し訳ありませんでした」
「いえ! 俺も規則を破ってまで力を使わせてしまって申し訳ありません」
俺達は互いに頭を下げる形となった。
「ふふ⋯⋯それではおあいこということでよろしいでしょうか?」
「はい」
偉くなってリリア様に感謝の言葉を述べるという目的が、思わぬ形で実現することが出来てよかった。
それにしてもまだ少ししか会話していないが、リリア様から優しくて温かなオーラを感じる。
やはり治療の見返りとして金銭を要求するとは思えない。
もしかしたら何か誤解が生じているのか、それとも誰かに嵌められたかもしれないな。
だけど今はそのことより、これからどうするか考えないと。
「そういえば⋯⋯ユート様は何故ここに?」
「あなたが心配で追いかけて来ました」
「私のために?」
「はい」
「私は罪人としてレガーリア王国を追放されました。ユート様は今からでもお戻り下さい」
「俺はリリア様は無実だと思っています。だからあなたの側を離れる気はありません」
サレン公国側からレガーリア王国に入ることは出来ない。それに例え入ることが出来ても、リリア様を置いて戻る気などない。
「⋯⋯私の事情に巻き込んでしまうのは申し訳ないですが、それ以上にユート様が来て下さったことがとても嬉しいです。ありがとうございます」
リリア様がこちらに近づいてきて、そっと俺を抱きしめる。
そして抱きしめたその腕は微かに震えていたので、俺も優しく抱きしめ返す。
無理もない。兵士から聞いた話だと、パーティー会場では誰も自分の味方をしてくれず、追い出されたと聞いている。
いくら聖女様とはいえ、十五歳の少女に堪えられることじゃない。
俺は腕の中で震えるリリア様を見て、間に合って良かったと安堵するのであった。
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