第4話 聖女を求めて公国へ
俺は西門を出て、夜の闇の中を駆け抜ける。
馬を使えばもっと早くリリア様に追いつけると思ったけど、残念ながら夜だったため、馬が買える店は閉まっていたのだ。
そのため、今夜は自分の足でリリア様を追いかけて、翌日に到着した街で馬を買い、サレン公国へと向かった。
そして夕陽の光で、周囲の色が紅く染まり始めてきた頃。
リリア様はどこまで行ってしまったのだろうか。
もうすぐ国境に到着するが、未だにリリア様が乗られた馬車に追いつくことが出来なかった。
やはり昨日、馬を使うことが出来なかったのが痛かったな。
何とか関所につくまでには、リリア様に追いつきたい所だけど⋯⋯
しかし俺の望みは叶うことなく、レガーリア王国とサレン公国を分ける国境までたどり着いてしまった。だが⋯⋯
「あれは馬車だ!」
関所の前には一台の馬車が止められていた。
もしかしたらギリギリ間に合ったのか!
「すみません! 聖女様はこちらにいらっしゃるのですか?」
俺は馬を降り、すぐさま関所にいる兵士達に向かって叫ぶ。
「聖女様だあ? ライエル王子から聖女は無能で、横領をした犯罪人だと聞いている。様をつける必要はないぞ」
「そんなことより聖女様は⋯⋯リリア様はどこにいるんだ!」
俺は一人の兵士の胸ぐらを掴んで問いかける。
「く、苦しい⋯⋯せ、聖女なら三十分程前にサレン公国へ追放したぞ」
「くっ! 遅かったか」
こうしてはいられない。俺も早く聖女様の後を追わないと。
俺は胸ぐらを掴んでいた兵士を突き飛ばし、再び馬に跨がる。
「お、お前サレン公国へ行くつもりか! もしこの関所を越えればどうなるかわかっているだろうな!」
レガーリア王国は、サレン公国から来る者は受け入れていない。この関所を越えれば、俺は二度とレガーリア王国に戻ることは出来ないだろう。
「そんなことはわかっている! どいてくれ!」
俺は馬に乗って無理矢理関所を突破する。
「くそ! 何なんだお前は! サレン公国の国境沿いには盗賊と魔物が蔓延っているんだ! もう聖女なんか死んじまっているよ!」
背後から見逃すことが出来ない声が聞こえてきた。
盗賊に魔物だと? これは益々急がなくちゃならないな。
そして幸いにも兵士達は、俺を追いかけて来るつもりはないようだ。
余計な時間を取られなくて済むから好都合だな。
とにかく今はリリア様を探さないと。
リリア様が関所を出たのは三十分前。馬ならすぐに追いつけるはずだ。
しかしまもなく日が暮れる。
夜になったら視界が悪くなり、リリア様を探すのは困難になってしまう。
「悪いがもう少しだけ頑張ってくれ」
俺はここまで運んでくれた馬に声をかける。
そして夕暮れの中、さらに馬のスピードを上げるのであった。
◇◇◇
聖女であるリリアは、レガーリア王国から追放され、サレン公国方面へと歩いていた。
婚約破棄を言い渡されてから一日経ったが、まだ状況が飲み込めていなかった。
伯爵様が置いていかれたお金は、パーティーがなければ翌日返すはずだったのに。
それと兵士の方達のお話では、私の家から他に大量の金貨が発見されたのこと。
何故そのようなお金があったのかわからなかった。
ただ一つだけ納得出来ることもある。
それはライエル様との婚約破棄について。
元々この婚約は、父を早くに亡くし、体調の良くなかった母が決めたものです。
もし自分がいなくなった時に、私が一人ぼっちになってしまうことを危惧しての決断だと母が言ってました。
私がライエル様とお会いしたのは、婚約を結んだ時だけ。五年間で一度しかお会いしたことがなかった。
たぶんライエル様には他に好きな方がいらっしゃったんだ。
それが昨日のパーティーでイザベラ様だとわかりました。
だから婚約破棄については特に思うことはありません。
横領に関して弁明したい所ですが、今はとにかくサレン公国へ向かわないと。
食糧も水も渡されていなかったため、このままだと餓死してしまうと考え、前を進んでいく。
しかしリリアは一人で外に出るのは初めてなため、その歩みはとても遅い。
そしてしばらく歩いていると、突如周囲から気配を感じた。
気がつけばリリアは数人の男に囲まれていたのだ。
「へっへっへ⋯⋯お嬢ちゃん、こんなところで何をしているんだい」
「ああ⋯⋯良かったです。どなたか人がいないか探していました」
「そうかい。でもここは暗いし一人じゃ危ないぜ」
男達は下卑た笑みを浮かべながら、ジリジリとリリアへと詰める。
「ご忠告ありがとうございます」
「こいつ⋯⋯今の状況がわかってねえな。どこかの箱入り娘なのか?」
「えっ? どういう意味でしょうか?」
「こんな所にいると俺達みたいなこわ~いお兄さん達に襲われるって話だ!」
男達はリリアの手首に手を伸ばす。
するとリリアはあっさりと捕まってしまった。
「や、やめて下さい! 突然どうされたのですか!」
リリアは捕まれた手を振りほどこうとするが、相手の力が強く、その願いは叶わない。
「どうされたも何も俺達は盗賊だ。お前の荷物は全て頂くぜ」
「盗賊? 悪い人達ですか」
「気づくのがおせえよ。それにしてもこいつは上玉だ。高く売れそうだぜ」
「少しくらい味見しても問題ねえよな」
盗賊の一人が下劣な顔で、動けないリリアの胸に向かって手を差し伸べる。
だがその手が、リリアの胸に触れることはなかった。
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