第6話
もう、だめだ。
私は意を決して、直接社長に電話をかけた。
『もしもし、堂本だが。』
社長の堂本健志の声はいかにも、というくらい不機嫌そうだった。
「お話があります。少しよろしいでしょうか?」
『忙しいからこのまま手短に』
話せばわかる。そんな相手ではないことは充分承知だ。もう今までのように、ここで仕事を続けることは不可能だろう。辞職を踏まえて、話を切り出した。
佐々木唯との不倫のこと。シフトのこと。人間関係もおかしくなって、仕事に影響が出ていること。しかし、社長からの最初の一言は『バカか?お前。』
は?お前呼ばわり?しかもバカ?
その後は電話先で一方的に怒鳴り散らされて、ガチャ切り。
はい、お疲れ様、私。振り向くと後ろには久保田みのりがいた。
「聞こえたんだけど。宮本さん、ここ辞めちゃう?」
「うん、そうなるでしょうね。あそこまで言ったから。」
「そんな。今だから言うけど、今まで教えてきた中で宮本さんが一番覚えるのが早かったし、仕事できたのに。」
そうだったんだ、それは嬉しいことを聞いた。
「今までありがとうございました。」
「え、そんなすぐ?」
「明日から来なくていいって言われましたので、多分?」
ここはないと思っていたパワハラ。やっぱり少しでも見えちゃうと、前に負った心の傷が痛む。私は翌日、辞職届を出した。
そしてまた無職に戻り、一か月後。佐々木唯から連絡が来た。社長と別れるときに揉めて、大変だったと。別れた後に、社長が佐々木唯の家まで来て、玄関先で大騒ぎをし警察を呼んだこと。
『バカか?お前』そのままそっくりお返ししますよ、社長。
久保田みのりからも連絡が来た。社長が行方不明になり、給料が支払ってもらえないと。店が経営不振で会社が倒産し、社長夫妻で蒸発したのだった。
あぶなっ!辞めてなかったら、給料もらえなくなるところだった。運は悪かったけれど、結果良かったかもしれない。それに、私はまた働ける。そんな自信がついた、と思う。
「お母さん、ちょっと聞いて!」
私は母に、先月まで働いていた店の会社が倒産したことを告げた。
「あらまあ、大変なことになったのね。巻き込まれる前に辞めて良かったわね。」
「びっくりよね…。」
そう言いかけたところでスマホが鳴った。
『こちら職業相談所ですけれども、宮本理子さんの携帯でお間違いないでしょうか?』
ワーク・ブラック・アクシデント ちはや @chi_haya
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