いつかの、いつもの その2

「本当に本部に報告していい?」


思わず口から言葉が零れたのは、

夜の中をひたすら歩いてきた白狼だからこそ。

報告されそうになっている方はと言えば、

狼に見下される形で土下座している。


手足の短いキースが縮こまっている為、

三色の毛玉が地面に落ちているようにしか見えず、

大きさに目を瞑る必要はあるものの

『三色の饅頭を前にマテをしている犬』

という絵面が出来上がっていた。


もちろん彼らにとって

そんな可愛らしい雰囲気では無い事を記しておく。

捕食者と被捕食者の様に。

蛇に睨まれた蛙の様に。


何があったのか。

そう、絶賛迷子なのである。


出発前にあれだけ眠ったキースだったが、

荷車の揺れに抗えず寝入ってしまったのだ。

しかも夢の世界に旅立っているのに、

半端に白狼の声に反応する始末。

白狼も猫人の返答を信じて進み続けてしまった。

涎を垂らして眠っているなど、

想像すらしていなかった為に。


結果。

雑木林に囲まれ、

少し季節を先取りした虫の音色が聞こえる、

情緒溢れる獣道の真ん中に到着したという訳だ。

因みに荷車は近くの木に留めている。


「ねぇ、キスケ。私『こっちで良いの?』って

 聞いたよね?

 キミは『そうにゃ』って答えたよね?」

「…。」

「『本当にこの道で良いの?』って

 何度も聞いたよね?」

「……。」

「なのにキミは私に荷車を運ばせておきながら、

 ゆっくりお休みされていたんだね?」

「ご、ごめんなさいにゃー!

 今度は寝たりしにゃいから、

 本部に報告だけは勘弁してほしいにゃ!」


などと言いながら

猫人が縋るように上目遣いをするが、

白狼は取り合わない。

いや、取り合っている場合ではない。


このままでは商品を送り届ける事すら完遂できるか否かという事態である。

そもそも、ここはどこなのか。


白狼は落ち着くためにも、

そしてどう進めば良いのかを照らすためにも、

魔法を唱えた。


「火よ。」


ボウ、と空中に現れる赤橙色の塊。

魔力と引き換えに生じる事象の召喚。

人の頭ほどの火球が辺りを照らー

「ストーップにゃ!」

ーす前に、猫人が水筒をひっくり返して

消してしまった。


「ちょっと!?何で消しちゃうのさ!?」

「こんなところで火を点けたら、

 野生動物は逃げるけど

 それ以外は寄ってくるものにゃ。

 とりわけ魔法を使えば魔力の残滓が漂う事に

 にゃるんだけど、コイツが厄介で…。」


ガサゴソ。

茂みが音を立てて動く。


「ここを縄張りにしている魔族に、

 敵対行動と見なされる可能性もあるにゃ。」


ガサゴソ。

ガサッ。


「■■■■■。」


それは白狼と猫人の直ぐ側の茂みから顔をだす。

それは人間ほどの大きさで。

それは緑色の身体で、腰布一枚を身に着けていて。


人間たちが

小鬼(ゴブリン)と呼ぶ者だった。

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