いつかの、いつもの その3
『緑の略奪者』、『ガラクタ拾い』、『いたずら小人』…。小鬼を表す人の言葉は数あれど、『歩く悪臭』ほど的を射た二つ名はそうそう無いだろう。
彼らは一度手に入れたものがどんな状態であってもそのまま使い続けようとするところがある。
修理や補強など以ての外で、あくまでそのまま使い続けるというもの。
それは彼らの擦り切れ垢まみれになった
腰巻きであっても同様である。
ボロボロで臭いがあればあるほど
価値があるとでも言うように。
故に小鬼は、常に強烈な悪臭と共に在る。
そのはずだった。
草むらから顔を出す眼の前の小鬼を除いて。
気配にも臭いにも気づかずに
ここまで接近されていた現状から、
少なくとも『普通の小鬼ではない』事、
テリトリーに侵入していた場合、
『戦闘になることも珍しくない』事も相まって、
猫人の警戒度が上がるのも仕方の無いことだった。
『…臭いがしなゃかった!?いや、今なら分かるから魔術かギフトで隠してた可能性が高い。だとしたらかなり厄介な個体だけど…!』
頭をフル回転させ、半歩下がって小鬼からの死角を作り、収納空間から身の丈ほどの杖を取り出す。
無駄のない流れるような動作は場数を踏んだ熟練者のそれであり、闇夜に煌めく双眸は小鬼の一挙手一投足を逃すまいと見開かれている。
すぐに魔術が放てるよう、
魔力の充填も既に済ませた。
後は相棒の白狼に向けて、
この場を離れることを告げるのみ。
「シロ!一旦ここから逃げる…にゃ…?」
言葉を待たずして、するりと猫人と小鬼の間に白狼が入る。顔を小鬼に向けている為、猫人から狼の表情は見えなかったが、子を守る親の様な位置となっていた。
『シロが前に出る程…。』
世界樹の杖を握る肉球に汗が滲んでいく。
狼は遂に口を開いた。
「あー、ごめんね。道に迷って火の魔術使っちゃったんだ〜。」
「………!?(予想外過ぎてフリーズ中な猫)」
「■■■■?■■■〜。」
「ここらへん、君たちの縄張りなんだね。
大きな道までどう行けばいいか知ってる?」
「■■■■■■。
■■■、■■■■■■■?」
「え!?良いの?助かるよ!」
「■■■■。」
固まっている猫をよそに、
狼と鬼の会話はどんどん進んでいく。
どうやら猫人のキースが思っている様な事は無く、
一人で警戒度を上げまくっては、
一人で緊張しまくっていたのだった。
「……ハッ!…まて、マテ、待つにゃ!
話が分からにゃい内に
どんどん進んでる気がするにゃ!
早く話の内容を教えるにゃ!」
気がつけば昔からの友人だったと言わんばかりに盛り上がっている白狼と小鬼。
辛うじてシロの言葉から
大体の流れは読めるのだが、
情報収集を怠るようでは
商人として三流以下なのだ。
猫人の声に気づいた白狼の、
振り返る顔は何と良い表情なこと。
「小鬼さんの村に招待されたんだよ。
妖精の道もあるみたいだから、
上手く行けばダルゼスの港に間に合うかも!」
肉球と毛玉とモフモフと べーたろ。 @makutanguuto
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