早くよくなれよ、相棒。彼女も待ってるぜ(5)

 食事を済ませてしばらくすると、ほどなくサラがテーブルにやって来た。さっきの違和感は、すでに消え去っている。

「おまたせ! 鶴だったわね。これはなかなか難しいわよ」

 そう言ってサラは笑った。

「まず最初に、出来上がった形をよく覚えておいてね。折り紙は、イメージが大切だって誰かに聞いたことがあるわ。今折っている場所が何になるのか、イメージすることで魂を送り込むんだって。うふふ。きっとびっくりするわよ! 私も自分で初めて折ったとき、すごく感動したもの」

 最初にサラがくれたレシートの鶴を思い起こす。サラが僕の手に、四角い紙を渡した。手の平より少し大きい。紙幣より心持ち厚いかな? くらいの紙だ。

「ではトビー坊っちゃま、始めます。よろしいですか?」

「お願いします」

「右上の端と左下の端を持って――」

 僕は言われたとおりに、紙の右上と左下をそれぞれの手で持った。

「その端と端を合わせるように、まず三角に折るの。それからもう半分のサイズの三角を作るように、端と端を合わせてもう一度折るわ。ええ、そうよ」

「そしたら、帽子みたいな三角ができるわね、天辺の部分を右手でつかんで……。そう、そしたらそのまま、逆側――左側を触ってみてどうなってるか確認してみて。紙が四枚重なっているのがわかるかしら」

「うん」

「その四枚の部分が、二枚ずつ、袋のようになってるのがわかる?」

 僕は首を傾げた。袋? サラの言っていることがわからない。

「指を入れて上下にたどってみて、四枚のうち、真ん中――二枚目と三枚目の部分はトビーから見て上が分かれているけど、一枚目と二枚目、三枚目と四枚目は、上がつながっていて三角形の袋のようになっているのがわかるかしら」

「ああ! わかったよ! なってる」

 僕の指の先に、途端に三角形の袋が二枚現れた。突然形作る手の中の紙。まだ二回折っただけなのに。

「ここからがね、少し難しいわよ! その手前の袋をまず、右手と左手でつかんで広げて、上にある端を、下側の端に合わせるのよ。ほら、ゆっくり開くと、その三角は、鳥がくちばしを縦に開いたみたいにパカパカとするのを想像してみて、でね、その開いたくちばしを閉じるように下に――」

 サラの説明はこんな風に続いた。サラに誘導されて、僕は折り紙をひとつずつ折っていく。一回折るごとに、もう今何をどう折ったのかなんて忘れてしまうほど、その紙は魔法のようにその姿を変えた。

「最初の紙のクォーターサイズの正方形ができたわね。完全に閉じている角、そうね、最初の広げた状態の紙の丁度中央部分が、その頂点になってるわ。そこを上にして持って、左右を合わせて縦に折りましょう。三角形になるわ。それを縦にもう一回折って、三角の紙ナプキンを折るようにしてみて。そう、そこよ。そのまま……。これは次に折りやすくするために筋をつけただけだから、後ですぐに開くわ」

「今折ったところを、一回開いて、二回開いて……。ええ、ここからが魔法の始まりよ。今度は縦にくちばしをまた開くように大きく持ち上げるの。下側の三枚の縁を合わせて一緒に左手で押さえて、一番上の一枚を右手で大きく上に開いてみて……そう、そうすると、さっき折った筋に沿って、上に開いていくのがわかるかしら。いっぱいまで開いたら、大きく縦に開いたくちばしみたいになったわね。その状態で、右と左の手前に飛び出た部分を内側の中心へ向けて折るのよ。ほら! 縦に長い一枚の葉っぱのようになったわ!」

 サラはもちろん僕の手や指を直接ガイドして教えてくれたけれど、サラの言葉に従って、ゆっくりひとつずつ紙の端をつかんでは折りたたんでいったり開いたりするごとに、手の中の紙がころころと形を変えていくことが本当に面白くて僕は夢中で折っていた。

 鶴を折っていることなんてすっかり忘れて、一回一回、四角になったり三角になったり、縦に伸びたり横に伸びたりを繰り返すその紙の変化に夢中になって、僕はサラの言葉の言いなりみたいに指を動かしていた。

 折り紙は、学校の授業でやったことがある。学校では『パクパク』ってやつを作った。指を四か所に入れて縦横に動かすと、しゃべってるみたいになるやつだ。たぶんそれは折り紙の中では簡単な部類だったんだと思うけれど、それでも結構難しかった。

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