猫の尿を届けるだけなのに
のっとん
散歩
とある休日の話です。
猫の採尿に成功した私は、さっそく動物病院に提出に行くことにしました。せっかくだから歩いて行こう。この浅はかな考えが思いもよらない長旅の始まりでした。
ここ最近、健康のために運動を心掛けています。動物病院までは片道徒歩20分程度。ちょうどいい距離ではないでしょうか。
コートにスマホ、鍵、財布と猫の尿を持って家を出ました。
涼しいし景色も変わるしジムで歩くよりいいな、なんて思いながらてくてく歩いていました。ここまでは快適な旅だったのです。
環状道路に差し掛かったところで最初の試練が訪れました。
歩道が、無い。
動物病院は交通量の多い環状道路沿い。そこまで通っているはずの歩道が無い。ストリートビューで確認してみると病院前には歩道があるものの、今立っている場所からは繋がっていないようです。なんでだよ。同じ通りじゃねーか。
道を挟んで反対側には歩道があるため、そちらを歩いていくことにしました。路側帯はあったものの、年末のこの交通量が多い中歩いていく勇気はありませんでした。猫の尿のために死ぬのは勘弁です。
あ、病院が見えてきましたよ。
しかし、第2の試練がやってきます。横断歩道が無い。
当たり前ですよね。車が快適に走るための環状道路です。そんなに頻繁に信号があったら快適には走れません。もういっそ、ここで渡ってしまおうか?
いや、無理だ。
自分もドライバーの端くれです。大きな道で飛び出してくる歩行者に何度怒りを覚えたことでしょう。同じ人間にはなりたくない。歩くしかない。
ああ、進行方向、国道方面に信号が見えます。あそこまで行けば渡れそうです。ただ‥‥‥遠いなぁ。いやいやいや、変なところで渡らないと決めたんだ。行くしかないでしょう。
誰か反対側まで車に乗せてくれないかな、という幻想を振り払いつつ歩き続けました。途中、道を聞かれるというイベントを挟みつつ横断歩道に到着。(こんなところを手ぶらで歩いている自分でいいんですか?と思いました)
横断歩道を渡り、さあ、同じ距離を戻ります。正直一番辛い時間でした。ただのUターン。病院からの帰りもまたここを歩く必要があります。あー気づきたくない事実だったなぁ。
病院に着いた頃には汗でぐっしょりでした。
念のため尿を外ポケットに入れておいて正解でした。内ポケットに入れていたら、看護師さんにほかほかの尿を渡すはめになっていました。危ない危ない。
滞在時間は5分ほどでしょうか。元来た道を戻ります。
といっても、完全に元の道ではありません。環状道路に並行して通っている裏道を見つけたのです。どこまで続いているか分かりませんが、同じ道を行くよりは楽しいでしょう。
いやーにしても、暑い。中に着ている服が適当すぎて我慢していたんですが、さすがにコートの前を開けました。ひんやりとした空気が、わき腹を撫ぜ背中を冷やします。普段なら避ける風も心地いいです。汗も一気に引いていきました。
さてさて嬉しいことに裏道は国道まで続いているようです。これなら変に戻らなくてもすみそ‥‥‥う‥‥‥橋がある。
なんと国道まで行かずとも自宅方面への橋が架かっているではありませんか。ここを渡ると、どうなるんだ?ということで再びGoogleマップ。
ははーん、なるほど。橋を使ったUターンってことか。それは、嫌だなぁ。
ルートが代わるとはいえ、真っすぐの道を行ったり来たりするのは精神的にきついものがあります。ミルクレープのGPSアートが完成しちゃうじゃないですか。
幸い国道は目前。出てしまえば、多少遠回りではありますが、寄り道できる店もあり、快適な旅となるでしょう。はあ、歩くか。
国道をてくてく歩いていて思いました。さすがに目標が欲しい。もちろん、最終目標は「帰宅」ですが、中間ポイントは大切です。
よしっ。
「ヘイ!ママン?欲しいって言ってた本なんだっけ?」
ということで、本屋におつかいへ行くことにしました。
さらに遠回りではありますが、まあ、ここまで来たら一緒でしょう。アドレナリンMAX。変なテンションです。
おつかいも終わり、いよいよ帰るしかなくなりました。さすがに、おとなしく帰路につきます。
と、ここへ来て第3の試練が立ちふさがりました。肩がめちゃめちゃ痛いんです。正直足より痛いです。鞄、持ってこなくて正解でした。コートだけでこんなに重いだなんて。鍵と小ぶりな財布、スマホに今買った漫画1冊しかポケットに入ってないのにこんなに重いだなんて。
このコートどこで買ったっけ。何年か前にユニクロで買ったのか。比較的軽いの選んだんだけどなぁ、なんて考えながらとぼとぼ歩きました。
自宅まで残り1kmほどのところであることに気づきました。
このルート、いつも気になっている100円自販機があるんじゃないか?
気になりつつ素通りする(おそらく)100円均一自販機。せっかくだし覗いていこう。目標が決まれば一気に歩く気力が湧いてきます。
さて、自販機にたどり着きました。
120円、130円、110円。あれ、普通の自販機だ。
250ml商品が多いものの、どれも他でも見る金額。100円のものはひとつもありません。なんだ。100円均一じゃないのか。
がっかりしてその場を離れます。少し進んで、でも100円って書いてあったよな?と振り返ると、確かに書いてあります。
100円~
100円~!?なんと100の文字の5分の1ほどのサイズで「円~」の記載があるじゃないですか。いつもちらっと遠目で見ていたので気づきませんでした。
いやー、なるほど。これもひとつの作戦ですね。完全に釣られました。
ということで、後はもう頑張って帰るだけです。寄るところもありません。
今回歩いた時間は約2時間。歩数は9000歩と少しでした。
散歩が趣味の人(2時間~歩く人)の凄さを感じます。江戸っ子なんですか。お武家だったんですか。それともドイツ人の血が入ってるんですか。
なんにせよ、猫のおしっこを届けるだけでくたくたになりました。
もう二度と歩いて動物病院には行きません。ここに誓います。
猫の尿を届けるだけなのに のっとん @genkooyooshi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます