第3話 虚構と現実と

 ダンジョンの空間は、極めて広く、しかも得体の知れない魔物の襲来があるから、一つの空間を巡るのに、通常、数ヶ月単位の期間が必要となる。

 また、階層を降りるには、空間移動ポイントを見つける必要があり、よほど熟練しない限り行けない。


 但し、俺の場合は違った。


 6年に渡るダンジョンの経験は、伊達じゃなかった。

 経験深度は、地下100階層にまで達しており、20階層までは目を瞑っても行く事ができた。


 だから、当然の事ながら、かなり多くの財宝や魔道具を手にしていた。


 ダンジョンで得られるものには、貴重な情報等もあるが、それによると、最深部の階層には魔王城があり、魔王が造った魔道具が存在するという。俺は、この魔道具を手にする事を、人生最大の目標に定めた。

 ちなみに、最深部は、地下500階層はあるようだ。

 



 マナスルが率いる、チーム、ピューマが、ダンジョンに入ったため、速やかに、そのあとを追った。

 彼らも、熟練しているようで、僅か8日目で、地下8階層に達している。

 ここまで、降りる事ができる冒険者は、そうはいない。少なくとも、Aランク以上の者でないと到達は難しいだろう。



 ザクムが率いる、チーム、シャドウは、距離を離されていたため、魔法の水晶を介し導いてやった。

 

 その甲斐があって、戦うのに絶好の空間に対峙している。



 ザクムは、マナスルの前に立ちはだかると、声を大にして戦うための口上を述べた。

 彼の顔を見て、金髪の美しい女性がマナスルの後ろに隠れた。

 恐らくは、ザクムの元婚約者のミカロであろう。



「おいおい。 言いたい事は、それだけか? そもそもだが、ミカロは凄く積極的だったんだぞ。 ザクムと言ったかな? 君が、しっかりと捕まえておかないから、悪いんだろう。 それから、子爵家を潰したのは、君のためを考えての事なんだよ。 サイヤ王国にいる限り、婚約者を寝取られた間抜けと指をさされるんだから!」


 そう言うと、マナスルは、大声で笑った。



「違う! 俺とミカロは幼馴染で、心が通っていた。 おまえが、彼女を無理矢理に犯したんだろ!」



「バカな! ミカロ、君からも言ってやりな!」

 

 マナスルは、後ろに隠れているミカロを抱え、自分の前面に置いた。

 大男の彼の前で、彼女は、まるで子どものように見える。



「ザクム、久しぶりね。 何て言って良いか …。 決して、嫌いになった訳じゃないのよ。 ただ、マナスルとあなたでは、身分が違い過ぎて。 実家にも相談したのよ。 仕方がなかったの …。 でもね! あなたの家が取り潰された事を後で知って、私も心を痛めたわ。 ゴメンなさい」



「そんな …。 君の意思だったのか …」


 ミカロの話を聞いて、ザクムは深く絶望し、その場に立ち尽くした。



「おいおい、それじゃ分かってもらえ無いだろ。 ハッキリと気持ち悪いから付きまとうなと言ってやりな! 気を持たせたら、可哀想じゃないか!」


 マナスルは、トドメを刺そうとして、ミカロの肩を強く叩いた。



「ザクム、私に関わらないで。 お願い …」



「分かった。 ミカロには関わらないが、マナスルは、この場で倒す。 これは、俺の意地なんだ」


 気力を奮い立たせたザクムの声は、少し震えていた。



「そうだ。 王家の者だからと言って、人の尊厳を傷つけてタダで済むと思うな!」


 後方から、男性の、叫ぶような声が聞こえた。



「あなたは、タクトなの? 大きくなって …」


 ザクムの弟の声を聞いて、ミカロは明らかに動揺していた。



「ケチくせえ連中だ!」



カキンッ



 マナスルの声が聞こえたと思った瞬間、タクトの直ぐ近くで、剣撃の音がした。



「何だ、これは? 結界なのか …」


 マナスルは、一瞬で後方に飛び去ると、周囲を見回した。



「皆んな! 魔法で、後方支援しろ!」


 マナスルは、大声で叫んだ。



「おい! おまえの相手は俺だ! 酒場で会ったが覚えているか?」


 俺は結界を解き前面に出て、マナスルの前に立ちはだかった。



「あの時の? ここは地下8階層だぞ! キサマは、何者なんだ?」



「おまえと同じ、SSSランクさ。 ミレーヌを解放しに来た」



「君は、魔道士のジャームなのか? ミレーヌは解放するから、僕達の戦いに関わらないでほしい」


 マナスルは、急に紳士的な口調になった。

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