第4話 最愛のメンバー

 10日ほど前の事である。マナスルは、ギルド長に呼び出されていた。

 サイヤ王国の王族である彼は、いつも特別待遇であったが、この時は、なぜか、ギルド長は不機嫌だった。



「マナスル殿。 魔道士のジャームと、何かトラブルでも?」



「いえ。 名前くらいは聞いた事があるが、ジャームなんて顔も知らないよ。 それが何か?」



「彼がギルドに来て、マナスル殿の素行調査をしていました。 勿論、何も情報を与えていません。 ジャームは正義感が強く、悪を黙って見過ごせない性格なんです」



「何それ! 僕が、悪い事をしてるとでも!」


 マナスルは、机を叩いて怒った。



「胸に手を当ててください」


 ギルド長は、内情を知っているのか、呆れたような顔をしてマナスルを見た。



「そりゃ、いろいろあるが …。 だけどさ …。 ダンジョンから多くの財宝を持ち帰っているからって、ギルドは、ジャームに特別待遇なのか? まあ、怖くないから、返り討ちにするさ!」


 マナスルは、豪快に笑った。



「ダメです。 決してジャームと戦ってはなりません」



「どうして? 僕は、SSSランクだ。 負けるつもりは無いよ」 



「確かに、マナスル殿が強い事は間違いありません。 しかしながら、ジャームの場合は、レベルが振り切れて測定できないほどなんです。 確実に言えるのは、人類で彼に勝てる者が存在しないと言う事です。 あなたが王族なので、伝えるんですよ」


 マナスルは、プライドを傷つけられたようで腹を立てたが、直ぐにおとなしくなり何やら考え込んだ。



◇◇◇



 時は、ダンジョンの地下8階層、戦いの場に戻る。


 マナスルは、皆の前で演説を始めた。



「良く考えて見たら、僕にも悪い所があったよ。 ザクムにミカロを返す事にする。 それに、子爵家を再興するなら力にもなる。 チームを解散して、国に帰ろうと思うんだ」



「そんな! 私を側室にする約束は、どうなるの? 王宮で暮らしたいのに!」


 ミカロが、マナスルに縋りついた。



「何だそれは! 俺だって、心が腐った女は要らない!」


 ザクムが大声で叫ぶと、ミカロは、膝から崩れ落ちた。



「マナスル、酷いですわ! SSSランクが情け無い! 許せません!」


 栗色の髪の女性が、激怒した様子で、光の矢をマナスルに向けて放った。



「シルバ! 何をする!」


 咄嗟の事に、マナスルの身体は自然に反応し、シルバを斬ろうとして、飛び上がった。



ザシュッ


 

 殺気を感じた俺の身体が勝手に動き、マナスルを袈裟斬りにした。



「しまった、殺っちゃった …」


 彼は、動かぬ肉片と化した。

 顔を見ると、口がへの字にひん曲がっている。

 突然の事で、本人も死んだと思ってないだろう …。



 マナスルを倒すと、チーム、シャドウのメンバーに、泣いて感謝された。


 ミカロとシルバは、帰国する事になり、行き場の無いミレーヌは、本人の希望により、俺に同行する事になった。

 つまり、彼女とペアを組む事になったのである。

 

 

◇◇◇



 ミレーヌは、銀髪で目は藍色、美しい顔立ちをした美人だった。

 対して俺は、顔はごく普通、中肉中背で、女性にモテるようなタイプじゃない。

 だから、彼女が側にいるだけで、幸せな気分になれた。


 ミレーヌといると、不思議とダンジョン内の探索が捗った。思いのほか優秀で、足手まといにはならなかった。

 そして、いつしか、ダンジョン内で生活しながら、最深部を目指すようになっていた。

 

 当然の成り行きで、ミレーヌと結ばれた。ちなみに、彼女は、俺にとって初めての女性だった。

 正式な夫婦ではないが、親密度は、どんどん増していった。


 俺が、ダンジョンの最下層にある、魔王が造った魔道具を手にする事を、人生最大の目標にしていると語ったら、ミレーヌは不安そうな顔で難色を示したが、最後は賛成してくれた。



 ダンジョンは、地下へ行くほどに、広大な空間になる。

 二人で冒険をするようになって5年を過ぎた頃、経験と本能から、最下層が近いと感じるようになった。


 しかし、この頃になると、なぜかミレーヌは、地上に戻りたいと、しきりに言うようになった。

 俺は、彼女の体調が悪いのではと思い、とても心配になった。


 そのような矢先、時空間を歪ませるような、これまでにない空間移動ポイントを発見した。

 俺は、これが最下層へ通じていると直感した。

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