第2話 マナスルへの疑念

 翌日の朝、俺は、チーム、ピューマの情報を探るため、ギルドを訪ねていた。ミレーヌという娘の事が気になって仕方がなかったのだ。


 職員は、最初は親切な対応だったが、なぜかマナスルの名前を出した途端に、口をつぐんでしまった。

 だから、ここでは、何も情報を得られなかった。



 しかし、捨てる神があれば拾う神がいるものだ。



「ジャーム殿。 マナスルの事で何か調べてるんですか?」


 ギルドの建物を出たところで、誰かに声をかけられた。



「あなたは?」



「自分は、チーム、シャドウのリーダーで、ザクムといいます。 マナスルは、英雄でもなんでもない、ずる賢くて最低の男です」


 不審に思ったが、話を聞くために軽食屋に誘った。

 そこで俺が、酒場で起きた事を説明すると、ザクムは怒りの表情で話し出した。



「マナスルは、サイヤ王国の王族の出身なんです。 剣も魔法も高レベルにあり、冒険者としてチームを率いていますが、帰国すれば王族として重要ポストに就きます。 奴が連れている3人の内、2人の女性は、名前をミカロとシルバと言って、貴族の娘ですが、奴の女なんです。 実は …」


 ザクムは、辛そうな顔をした。



「だいじょうぶか?」


 俺は、ザクムの様子を見て心配になった。


 

「はい、思い切って言います。 俺はサイヤ王国の子爵家の生まれなんです。 ミカロも子爵家の生まれで、自分の婚約者だったんです。 彼女は魔法が得意で、王宮に入ってから …。 なぜか、家に帰らなくなりました。 ミカロは、マナスルに犯された …」



「なにっ! 力づくでか?」



「はい。 その後 …。 突然、俺の家が取り潰しになり、一族は離散して …」


 ザクムは、手を強く握り締め、一旦、言葉を飲み込んだ。



「マナスルが王族の力を使って、マカロの婚約者である俺の家を潰したんです。 その後、俺は、ダンジョンの街に流れて来て、冒険者になったんですが、ここで、ミカロがマナスルと同じチームである事を知りました。 ジャーム殿が言ってたミレーヌにも目を付けているんでしょう。 俺は、マナスルに一矢報いたいが力が及ばなくて …。 お願いですから、ご助力をいただけませんか?」



「それが本当なら、マナスルを放って置けない」


 俺は、怒りで身体が熱くなった。



「自分のチームメンバーは、他に3人います。 弟が1人と、子爵家の頃に俺を守ってくれた者の2人です。 自分を含め、4人はAランクです。 ジャーム殿が加わってくれたら、チーム、ピューマに対抗できます」


 ザクムは、俺の手を握って頭を下げた。



「分かったが、俺が手を貸すのは、マナスルが悪人だとハッキリした場合だ。 証拠がほしい」

 

 ザクムの危機迫る感じを見ると、嘘を吐いているように思えないが、マナスルの態度も紳士的で、そこまでの悪人に見えなかった。

 ミレーヌという女性を救いたいが、マナスルの命を奪おうとまでは思えなかったのだ。



「マナスルは狡猾な男で、自分の非となる証拠を残しません。 ですが、誰も見ていない場所なら、本性を現すでしょう。 奴のチームは、今週末に、ダンジョンに入ります。 そこで、俺達はマナスルと戦うから、その様子を見てください。 納得したら、ご助力をいただく。 それで、よろしいですか?」



「分かった。 だが …」



「何でしょう?」



「この俺が、信用ならぬ男だったらどうする?」



「我々は、長く、遺恨を晴らす機会を伺っていました。 ジャーム殿が加わるかも知れないというだけで、士気が上がるのです。 メンバーは、皆、名誉を回復したいと願うだけで、命など惜しくありません」



「そこまで言うのなら …。 あなた達に気づかれぬよう、近くに張り付いている。 それだけは、約束する」


 俺が、心を決めた瞬間だった。


 マナスルもSSSランクだから、命のやり取りになるだろう。

 戦いを欲しているのか、俺の身体がブルッと震えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る