【伝説と呼ばれた魔道士】それは、ある王族冒険者によるNTRから始まった :  伝説の魔道士ジャームの物語

初心TARO

第1話 ある酒場での出来事

 寒風吹きすさぶ夜空を見上げ、久しぶりに感情が昂った。



「親父とお袋の行方が分からなくなってから、6年が経つのか …」


 俺は、思わず呟いた。





 タント王国の剣術師範である父と、魔術師範である母が、国の調査団に参加した後、ダンジョンで帰らぬ人となってしまった。

 俺が祖国を出て冒険者になったのは、そんな両親を探そうとしたからだ。

 もはや、生きているとは思えないが、それでも諦めきれない …。



 俺はジャームという20歳になる、ダンジョンの街で暮らす、ソロ冒険者だ。

 数々の魔道具や財宝を持ち帰っており、その活躍は、他の冒険者の追随を許さない。

 だから、多くのチームから誘われるが、俺はソロに徹していた。

 なぜかというと、ダンジョンの最下層を目指しているからだ。

 ここは、この世で最も危険な場所のため、チームのメンバーは、足手まといでしかない。


 自分で言うのも何だが、俺の剣術と魔法は、それほどまでに高みを極めていた。



 俺は、小さい頃より、両親から剣術と魔法を学び、10歳の頃には、国で並ぶ者がいない程のレベルに達していた。

 しかし、両親は、その事を周囲に隠していた。王国の権力闘争に利用されるのを恐れたのだ。

 

 だから、初めて能力を解放させた時には、水を得た魚のごとく、力がみなぎるのを感じた。


 ギルドでの俺の実力は、当然の事ながら、最初から最高位のSSSランクだった。



 ランクは実力順に、上からA~Fがあり、Bランク以上の者は滅多にいない。

 Aランクより上の、特に実力のある者には、Sランクが付与される。Sランクにも3つのランクがあり、SSSはその中で最上位とされる。



 ダンジョンの街には、他にもう一人、名を馳せた冒険者がいた。

 そいつは、ピューマという4人編成のチームリーダーで、マナスルという男性の冒険者だ。彼も、最高位のSSSランクだ。

 他の3人は、美しい女性のメンバーで、皆、Aランクだ。

 チーム、ピューマは、俺より、有名な存在だった。





 夜空を見上げたまま、また、呟く。



「今夜も、飲みに行くか!」


 俺の足は、いつもの酒場に向かっていた。


 一人で、チビチビと飲んでいると、何やら、隣の席が騒がしい。

 つい、聞き耳を立ててしまった。



「なあ、ミレーヌ。 他の2人のように、俺の意思に従え! 身寄りの無いおまえをチームに入れた事に、恩義を感じてないのか?」



「そうよ、ミレーヌ。 私達は、誰のおかげでここまで来れたと思ってるの?」



「仲間は家族も同然! リーダーに尽くすのです」



 声のする方を見ると、見栄えの良い男性1人と、3人の美しい女性の姿があった。

 よく見ると、2人の女性に両脇を挟まれ、身動きが取れない状態で、叱責されている女性がいた。


 虫唾が走る光景だ …。

 


 俺は、立ち上がると、隣の席を睨んだ。



「なあ! その娘は、嫌がってるよな。 いい加減にしろよ」


 俺の言葉に反応し、男が立ち上がった。彼は、俺を見下ろしている。

 2mはあろうかと思う大男だった。しかし、顔は優しげな二枚目で、悪人には見えない。



「チームの中での話なんだ。 言いがかりは、やめてくれないか」

 


「その娘を責めているように見えたから …」


 相手の穏やかな声音に、先ほどまでの怒りの感情が、少し萎えた。



「責めてなんかないわ。 チームの仲間として、話しているだけよ」



「そうよ。 あなたは、勘違いをしています」


 2人の女性も立ち上がり、近寄って来て男の弁護をする。


 周囲の客も、何事かと集まって来た。

 なぜか、俺が悪者にされている雰囲気だ。



「僕は、ピューマのリーダー、マナスルだ。 勘違いさせて済まない」


 マナスルが、大きな声を発すると、周囲から歓声が上がった。

 皆、英雄を羨望の眼差しで見ている。


 俺は、完全にアウエイの状態に置かれてしまった。



「ミレーヌ、行きましょう!」


 2人の女性に手を引かれ、責められていた女性が店を出て行く。



「皆んな、お騒がせしたね。 これで飲んでくれ」


 マナスルは、テーブルに金を置いてから、俺と周囲の者に挨拶をして、足早に出て行ってしまった。


 俺は、呆気に取られながらも、ミレーヌという娘の事が、心に引っ掛かっていた。

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