第10話 怒りの矛先

 出島は一人、墓地へと赴いた。


 そろそろ墓地を半周してしまうというところで、目的の墓を見つけた。


「菊市家の墓」


 今回のひき逃げ被害者である、家永小夜こと、菊市伊佐奈が眠る墓だ。

 そして彼女の兄、菊市蒼人あおとも眠っている。


 あれから捜査は一気に進んだ。


 萩谷は自宅に帰る途中に伊佐奈を轢いたということだった。

 ドライブレコーダーからもそのことは証明された。


 つまり、伊佐奈は帰宅する萩谷の車を発見して、突進してきたことになる。

 このことから、伊佐奈は萩谷の家のある方向からやってきた。


 彼女の持っていた頭蓋骨には土がついていた。

 その土は乾いておらず、掘り出してすぐの骨に見えたという報告があった。


 これらの事実から萩谷家の庭が捜索された。

 案の定、掘り返された跡が発見され、更に掘り進めると残りの骨が出てきた。


 このことを萩谷に聞くが、俺は知らないの一点張りで、口を割ろうとしなかった。


 その頃、萩谷の周辺を捜査していた刑事から、別の報告が上がってくる。

 昔よくつるんでいた悪友が証言をしたのだ。


「もう、楽になりたい」

 そう言って、菊市蒼人の殺害をほのめかした。


 萩谷や悪友たちが高校生の頃、彼らは萩谷を中心に悪さをしていたという。


 店主が見ていようが、これみよがしに万引きをする。

 路上駐車をして、運転手が下りたばかりの車に傷をつける。


 目撃した大人たちは注意こそするが、萩谷の家に逆らうことを恐れてそれ以上のことはしなかった。


 そこに蒼人が現れる。

 正義感の強かった高校生の蒼人は一年上の彼らを正そうとした。


 しかし、その行動は彼らの怒りに火を付けた。


 萩谷たちは、蒼人に暴力を振るうことで、鬱憤を晴らすようになる。

 凶行はエスカレートし、ついには殺人にまで至った。


 この時点で、ようやく彼らも事態を把握したのだろう。


 死体を萩谷の庭に埋めると、それ以降彼らがつるんで何かをすることはなくなった。


「何が『楽になりたい』だ」

 出島は一人毒づく。


 ぬけぬけと自白した悪友に腹が立つ。

 その証言がなければ捜査は遅れただろうが、喜ばしいことなど一つもない。


 だが、その嫌悪感はすぐに自らに跳ね返ってくる。


 出島は今一度、菊市家の墓に視線を移した。

 胸にこみ上げてくる嫌悪感と罪悪感に押しつぶされそうになり、出島は深々と頭を下げた。

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