第7話 才能のない二人

 出島はすぐにしまったと思い、冷静なふりを装って苗木と向き合う。


「なによ? 優作がどうかしたの?」

 しかし、時すでに遅く苗木に感づかれていた。


 すぐ顔にでるから、刑事の才能はない。

 昔、所轄にいる時、言われた言葉が蘇った。


「いえ、それよりも――」

「言いなさいよ!」


 苗木に言われ、出島は腹をくくった。


「菊市伊佐奈さんをひき逃げした犯人の名前は……萩谷優作です」


 どうせ報道ですぐ知ることになる。

 それなら明かしても問題はないと判断した。


「そんな……それじゃ優作が小夜を轢き殺したってこと?」


 そう、もはやただのひき逃げということではなくなっていた。


 被害者と加害者が知り合いだったということは、萩谷が伊佐奈を狙って轢いた可能性が出てきた。

 つまり、計画的な殺人だ。


「そんな、そんな」

 苗木は膝から崩れ落ち、玄関にへたりこむ。


 やはり、ただの強がりだったようだ。


「だから、言ったじゃない。あんな男やめろって! 何度も言ったじゃない! なんで言う事聞かなかったのよ! バカ!」


 そこからの苗木は、溢れる涙を拭うのに精一杯な状況だった。


 この場を立ち去ることに気が引けた。

 しかし、出島は心を鬼にして、頭を下げる。


「それでは」

 そう言ってドアを閉じた。


 後ろからは無言の会津がついてくる。


「すいませんでした」

 背後から声をかけてきた。


 会津にしても、苗木が伊佐奈の死を軽んじていると誤解して、苗木に怒鳴ってしまったわけだ。

 謝りたくもなるだろう。


 しかし、その言葉は出島に言っても意味がない。


「俺たちはまだまだってことさ」

 出島はそれだけを告げて、先を急いだ。

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