第38話 不満症候群
私たちの住む世界、「空の先の世界」にはとても大きな樹木があるの。
世界樹って聞いたことがあるかしら?
ユグドラシルなんて呼ばれ方もしているわね。
根は冥界にまで伸び、天界を支えてるという樹木ね。
ここには多くのものが吸収され実をつけるの。
そう、あなたが今思った通りよ。
死んだ者の穢れた魂を吸い上げて、私達羽ある者達、そう天使と思ってくれて差し支えないわ。
この巨大な樹木に栄養を与え、枯れさせないようにするのが仕事の一つなの。
そうね、この樹木の実は魂そのもの。
綺麗に浄化された魂があなたたちの星に配られると考えてくれるとわかりやすいでしょう。
一応私たちの世界にも階級というものが存在するわ。
この階級は絶対で、人間のようにその実力によって昇って行けるなんて言うものではないのだけど。
絶対的な創造主、いわゆる神ね、を頂点とする階級制度なんだけど、私は神の直属の8人の天使にあたるわ。
ええ、かなりの権限を与えられてるのよ。
この仮想現実を作ったタケル、あなたが神だとすれば、管理AIたちが私たちの立場だと思ってくれればいいわ。
それよりもかなり強力な権限があるんだけど、ね。
神は世界を作ったきり、その管理を完全に私たち8人の天使に任せっきりになった。
その私たちの下にも多くの天使がいて、世界樹の世話をしているんだけど…。
神が作ったタケルが現実世界として認識している星では、長い間弱肉強食という状態が保たれていた。
この強者でさえ、死ねば弱者の餌になるし、場合によっては多数の弱者に強者が食われることもあった。
つまり綺麗な円環状に整っていたの。
それはわかるでしょう。
人間も発生当時は弱者で狩られる立場だった。
だからこそ集団での生活を始めた。
蛇に唆されて知恵の実を食べたことによって楽園を追放された話、前にしてくれたこと、あったよね。
あまりにも私の状況に酷似していたから、私の閉じ込められた記憶が暴れて気を失っちゃったの。
本当にあの時はごめんなさい。
実際に人間たちが天上界「空の先の世界」にいて、知恵を身に着けて下界に落とされたという事実はないわ。
単純に強者と戦うための武器として身につけたに過ぎない。
でもその結果、綺麗な円環状に働いていた食物連鎖が壊された。
私が言いたいことが分かるかしら。
円環状に綺麗に回っていた魂が、食物連鎖の頂点に立った人間たちに集まり始めたの。
一応安全機構のようなものが働いていたようで、同じ種族で殺し合いを始めてくれて、勝手にその数を減らすかと思ったのだけど。
それにも限界があって、平和の名のもとに同族殺しが減って行った。
私はあまり「空の先の世界」から下を見ることがなかったの。
私の下に配属されていたものから誘われて、下界を見た時の衝撃は今でも頭にこびりついてる。
その醜い「人間」というものに。
平和という名のもとに、その裏で欲望の限り、この星の資源を喰らいつくす化け物に育っていた「人間」。
このままでは「神」が作り、私たちが大事に育てていた世界樹のように綺麗だった星が醜くなっていく姿に、「人間」に対して怒りを抱くようになったわ。
人間であるタケルの前で言う事ではないわね。
でも、私は「人間」に対してどうしようもない憎しみを持ってしまった。
人間を減らし、滅亡へと駆り立てるのにはどうしたらいいか?
戦争が一番効率がいいようにも思えたけど、今の人類はこの星そのものを破壊するほどの武器を持ってしまった。
天災による調整は何度か試みたけど、他の生物たちもどうしても巻き込んでしまう。
人類にだけ殺傷力のある病気を流行らせることもしたんだ。
けど、病原体自身が生物であるために、その生存本能から、殺傷能力が高いと宿主が死んでその病原体も死んでしまう。
その結果、感染力は強くても致死性は落ちてしまうという生存戦略が取られるようになった。
うまくいってるのは脳の作動を弱めていく方法。
あなたたちが認知症と呼ぶ一連の病気ね。でも死ぬまでに時間がかかる。
私はその脳に直接作用する認知症のような病態を考えたの。
発病したらその個体も死ぬけど、その前に同種族を道連れにするような……。
そう、「不満症候群」は私が人類に与えた自滅プログラム。
だからわかりやすいようにその脳に印をつけた。
「天使の羽」ね。
憎いでしょう、タケル。この私が…。
私を愛したことを後悔するほどに。
でも、私が考えた時よりも、その発病率は落ちているのよ。
何故だか分かるかしら?
そしてなぜ私がここにいて、あなたの審判を受けようとしているのか?
そう、私は「空の先の世界」から追放されたの。
何故かって?
それはね、私がやったことがバレてしまったの。
私がやっていたことは私自身の独断であって、「空の先の世界」の承認は受けてないし、当然「神」が下した命令でもなかった。
織天使ガブリエルに私のしたことが分かってしまったの。
で、追放。
この時に、本当であれば人間として人間の世界で人というものを学ばせるはずだった。
ただ、それこそ神様の悪戯のようにこの世界の法則に重なってしまったの。
この言い方では全くわからないわね。
天使を人間界に落とすときには雷がよく使われるの。
その時も、晴天にも関わらず雷鳴が轟いたはずよ。
でも、その時にあなたのこのシステムが絶妙なタイミングで起動したの。
その結果、この私という情報を持った雷と、あなたのシステムに電流が流れたときにシンクロしてしまい、私という情報があなたの量子コンピューター「
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