第2話 出会い
音がする。波音?
目を閉じているのに、強烈な光。
体の周りに冷たい水を感じた。
そんな光が少し弱まった。ゆっくりと瞼を開く。
視界一面に顔があった。少女?逆光でよくわからない。
「あぅ、やっぱり生きてる!」
その少女が驚いて顔を退けた。
強烈な太陽光がまた僕の目を直撃して、世界が白くなった。
「だ、大丈夫ですか?」
少女は慌てて顔を離した。
栗色の髪の毛が急に頭を動かしたせいか、俺の身体に降りかかってきた。
その数本が俺の鼻をくすぐった。
「はッ、はっくしょん‼」
思わずくしゃみが出てしまった。
その勢いで上半身を起こした。そして、あたりを見渡す。
どうやら砂浜に打ち上げられたようだ。
全身がずぶ濡れだが、寒さは感じない。
そして心配そうに俺を見ている少女の姿がやっとまともに目に飛び込んできた。
少女の身体はほぼ裸であった。
年のころなら10代後半から20歳というところだろうか。
その存在を主張するような双峰や下半身は薄めの布を無造作に肩で結んだ状態で隠しているに過ぎない。
それが俺を助けようとしたのか、全身に海水を浴びて体に張り付いていた。
布自体が白いシーツのような素材で胸の先や股間にも張り付いて、そこからうっすらと桃色や栗毛色が透けていた。
俺はその光景に思わず目を逸らした。
俺がくしゃみをして上半身を起こしたことにより、距離を置いていたその少女が、また俺の方に近づいて来た。
「あ、あのう、お怪我、とかないですか?」
どうやら心配してくれているようだ。
さっきは逆光でよく見られなかった少女の顔が、今度はよく見えた。
美しい女性だった。
栗色の髪の毛が無造作に首の後ろでくくられている。
長さはセミロングと言ったところか。
眉は少し細めで少し垂れ目。睫毛がこの距離からもわかるほど長い。
瞳の色が、俺はちょっと見たことがない色だった。
カラコン?いや、そういう感じでもない。
碧い目というには色素が薄い気がする。
空色…、そう、そんな感じで、透明感が強い。
この日差しの下では異様に肌が白い。
幽霊だと言われたら信じてしまいそうだ。
にしては、存在感が異常に強いんだが…。
顔の造形が、自分とは違う気がする。そっと自分の顔を撫でてみた。うん、のっぺりしている。
彫りが深い。
同じ人種には見えなかった。鼻が高く、その鼻梁は筋が通っている。
唇はその割には小さく感じる。何故かと少し考えていたらその口が開いた。
「言葉、しゃべれますか?それとも、理解できませんか?」
日本語でそう言ったかと思ったら、こちらが何も言わないと、同じ意味の英語とフランス語、北京語、アラビア語で尋ねてきた。。
俺には日本語はしっかりと分かったが、英語は日常語には不自由しないレベルで聞き取れる。フランス語は何とか聞き取れるが、北京語、アラビア語は全く解せない。
さらにスペイン語、ポルトガル語とまくし立ててきた。
わからないはずなのだが、その言語の種類は理解できていた。
この時始めて俺は解った。
俺はいったい何者だ?
記憶の欠如があることに初めて気づいた。
「日本語なら大丈夫だ。」
それだけをその美しい女性に告げた。
女性の口が小さいと思ったのは、その唇が薄く、さらにほとんど血色がないほど白かったからであることに気付いた。
「このままここにいたら、また波にのまれて、下手をすると離岸流に巻き込まれて沖に流されてしまいますよ。こっちへ。」
少女はそう言うと白く細い右手を俺に差し出してきた。
俺は言われるがままに、その右手に自らの手を差し出した。
少女が俺の手を握った。そして自分の体を起こそうとした。
が、波打ち際の砂に足を取られて、俺の身体がまたもや海に倒れ込んでしまった。
俺の手を握っていた少女も一緒に俺に倒れ込む。
思わず少女の細い体を抱きしめる形になった。
思った以上に細い華奢な体だった。
俺の胸元にうずめる形になった顔は本当に小さい。
人形かと思ったほどだが、確実に伝わる体温がそれを否定した。
背中に回してしまった手が少女の背中に触れた。少女の身体がビクッと震えた。
俺の左手が少女の背中に柔らかな皮膚とは明らかに異なる硬質の感触を覚えた。
「ごめん。足が滑った。」
俺は慌てて女性を押し上げるように離した。
少女も俺の手を離して立ち上がり、一歩後ろに下がった。
俺も海水の下の砂地に両手を置き、上半身をもう一度起こす。
体の衣服が海水を充分に含んでしまって重い。
さらに足に力を入れ、今度は自力で立ち上がった。
自分の来ている服を確認する。
ボタンダウンの水色のシャツに、グレーのスラックス。
海水に浸っている革靴の下に黒い靴下。全てが重い。下着も同様だった。
少女は全く警戒をせずに俺が浜辺まで来るのを待っている。
海水に浸った少女の姿は、強い日差しの中でさらに透明度を増している。
その形ばかりの身体を隠している筈の布は、完全にその下の肢体を晒している。
少女はその状態に気付いていないのか、それとも気にならないのか、全く隠す気配がなかった。
重い体を引きずるようにして少女のもとまで歩き、そのままへたり込んだ。
「その服、脱いだ方がいいよ。今は陽ざしが強いけど、乾かしておかないと、陽が陰るとそれなりに寒くなるから。」
その前にお前が何か着ろ!
思わずそんな言葉が口から飛び出しそうになる。
だが、よく考えれば他の場所に防寒用の服があるのかもしれない。
そう思った。
自分が何者で、どうしてこうなったのかはわからないままだが、自分が何らかの事故でここに漂着したのは間違いないだろう。
とすれば、今着ているこの服はかなり貴重だ。
少女のアドバイスは間違ってないと考えた。
だからと言って俺を凝視している美少女の前で、服を脱ぐには、いささか抵抗がある。
視線を少女に向け、暗にどこかに行くか、せめて目を逸らしてほしいという願いを込めて見つめてみた。
少女は全く動じず、そこから動こうとはしない。
どころか、そこにしゃがみこんで、俺のストリップショウを楽しみにするかのような表情を浮かべている。興味津々だ。
少女の濡れていた布が乾き始めていた。
その為、それほど強くないとはいえ風が吹くたびに捲れ上がる。
それでなくとも白い綺麗な脚がさらされているのに、その奥の太ももばかりか、さらに奥の、栗色の毛で覆われている秘部までが視界に入ってくる。
「申し訳ないんだが、どこかに行くか、最低でも俺を見ないで欲しいんだが…。」
俺のこの懇願に対して、キョトンとした表情を向けてきた。
「いや、見られてると、脱ぐのが恥ずかしいんだが…。」
一応、そんなことを言ってみた。
だが、やはり訳が分からないという感じで俺を見てる。
確かに俺は男なんで、そこまでは恥ずかしくはないが、下着迄脱ぐとなると話は変わってくる。
そう思ったのだが…。
「なんで恥ずかしいの?服を着てたり、靴を履くのはこの柔らかい体に傷がつかないようにしたり、寒さでこの体温が下がって命が消えないためでしょう?生まれてきたときからの姿が恥ずかしいわけがないわ。」
羞恥心というものを持っていないのか?この少女の今の格好も、あくまでも陽ざしから身を守るためという事か?
そんな人間に「恥ずかしい」という感情の説明をしようとして…、言葉が思いつかなかった。
下手をすると排泄行為さえ、何の恥じらいもなく目の前でされてしまうかもしれない。
ので、恥の例として排泄行為を引き合いに出すのも止め、説得することを放棄した。
「言っても無駄かもしれないけど、君の股間がもろに見えてしまうときがあるんだが…、恥ずかしくはないのか。」
眉をよせ、顔を
「おかしなことを言うのね。恥ずかしいというのがよく解らないけど、あなたがそんなにみたいなら、見ていいわよ。」
その美貌の少女は、そう口にすると立ち上がり、身に纏っているその唯一の布の裾を持ち上げ始めた。
「ストップ!やめろ、脱がなくていい!」
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