空の先の世界

新竹芳

第1話 序章

 目の前に大きなしめ縄、神楽殿大注連縄が目に入ってくる。


 恋人である金髪碧眼のメリアラインとデートをするのは3回目だが、メリアラインと初めて会ってから友人として、数多くの名所に行っていた。


 ノートルダム寺院で、僕から告白して付き合うことに成功した。


 今の世の中、心がふれ合ってれば、それでいいように思う。

 日本の高校に通う僕は、実際に学校には週2回ほど通っていて、それ以外はオンライン。都合が合えば友達とリアルで遊びに行く、という感じ。


 今はメリアラインが行きたがっていた、出雲大社に二人で来たとこ。

 目の前のしめ縄は非常に有名で、僕は一緒に見に行こうと約束を取り付けて今日来たのだけれど…。出来れば、今日、キスしたい、なんて思ってる。

 ただ僕はキスなんて、今までしたことがないんで、ちょっと心配。


 でもそれはまだ先の話。

 いまはこの「八百万やおよろず」でのデートを楽しもう。


 メリアラインの華奢な手を引っ張って、その大注連縄をくぐった時だった。

 後ろから悲鳴が上がった。

 ビックリした僕とメリアラインは振り返った。

 その直後、大きな銃らしきものを持つ男が視界に入った。


 あぶない!


 僕はメリアラインの手を引っ張って地面に伏せさせた。

 僕はその上に覆いかぶさる。


 と、同時に胸や腹に激痛が走った。遅れて銃声…。







 恐ろしく巨大な樹が、いかつい髭面の大男の後ろに見える。

 私はその男に追い詰められていた。

 もう数歩下がると、下に転落しそうだ。


 その巨大な樹木の周りを純白の翼を持つモノが飛び交っている。

 樹木の枝にとまり休んでるモノたちも見える。

 興味深げにこちらを見ているようにも思えた。


 だが。

 私は、いま、まさに迫る恐怖を体現した男の魔の手から逃れることに必死だった。


 私にも翼があれば、この危機を乗り切れるのに。


 男の後ろを飛んでいるモノたちに気を取られた一瞬の隙をついて、男の太い手が私に襲い掛かってきた。

 何とかその腕をよけ、そのまま脇を抜けようとした。

 だが、その動きも男に読まれていた。

 あっさりと私の細い右腕を掴まれ、その武骨な顔を、私の顔に近づけてきた。


 うっ、気持ち悪い。


 そう思って顔をそむける。


「自分のやったことをその身を持って償って来い!」


 男はそう言うと、私の身体を、そのまま下に堕とした。

 雷鳴の轟が私の聴覚を支配した。







 完全に俺のミスだった。


 折角の新婚旅行に、自分が持ちセスナを持ち出して、会社が協賛する南の島までフライトを楽しもう。


 そんなことを考えるべきではなかった。

 強大な積乱雲がすぐ目の前に広がっている。

 横にいるはずの妻の存在も、今の俺には感じられない。

 何とかこの危機を回避しなければ。


 気象図はしっかりと見たはずだった。それでも浮かれていたんだと思う。


 やっと愛する女性と籍を入れ、1か月の結婚休暇が認められ、会社が協力したリゾートである南の島への査察名目での旅行。浮かれるなという方が無理、というものだが…。

 命の危険となると、そうも言っていられない。

 何とかその嵐の塊を何とか避けようと操縦桿を倒し込むが、もう間に合わなかった。


 強大な稲光。

 光が爆発的に広がる。

 異常な振動。

 と同時に衝撃。

 意識が途切れた。







 酷い雨だった。


 これでは外には出られない。


 この建物自体は丈夫だとは思えるけど、外に出られなければ、飲み水も汲んでこれない。

 昨日、木の実だけは多めにとってきたから、この部屋でじっとしてれば大丈夫だとは思うんだけど。


 でも、トイレの悪臭を流すには、それなりの水が必要。

 まさか、おしっこもうんちも我慢しないといけないという訳にもいかないし。


 私は振り続ける雨と、時折強く吹く風を怖がりながら、ベッドにうずくまっていた。


 この部屋にいる限りは、なにも着なくて大丈夫だし、この嵐のせいか、暑さは大丈夫そうだ。

 タオルはいっぱいあるから、寒くなればそれをまとえば大丈夫だろう。

 あの強い日差しの時はこのシーツで作った日よけがないとえらい目に遭うけど、普段は何も着る必要はないし。

 そう思いながらベッドでうずくまって、眠りについた。


 次の日は快晴。

 日差しが強い。


 悪臭を発しているトイレから、水の落ちる音がしたから、臭いのを我慢してトイレを見てみる。少しうんちやおしっこの所に、水滴が落ちていた。もしかしたらと思って、レバーを動かす。

 勢いよく水が出てきた。うんちとおしっこが綺麗に流れてくれた。

 助かった。

 臭いはまだあるけど、人心地ついた。


 と言っても、裏の池の水を汲みにいかないと。

 嫌だけどシーツで作った日よけを被る。


 とりあえず、池の水をくんで、何とか魚を確保。

 これで生きてはいけるけど…。

 食べるものはもうちょっと何とかならないかな。

 なんでここにいるのかもわかんないけど、生きていくには必要だもん。

 そんなことを思って窓から外を見たら、浜にいろいろなものが流れていた。

 そこには、今まで食べていた魚とは違う種類の魚がいた。

 拾って食べたら、今までの魚と味が違っておいしかった。

 でも外に行くのに、この布を着なきゃな。

 この陽ざしで何も着ないときに火傷したみたいで、ひどい目に遭った。

 だから、ちゃんとしないと。

 痛いのも、苦しいのも、いやだもんな。

 何とかなんないかな。


 って思って今日も終わり。

 こんなことを何度繰り返せばいいのかな。


 そんなことを考えてた次の日、なんか、木みたいなものが浜に流れ着いたのが見えた。その中に、なんか人間みたいなものがあった。

 私は慌ててシーツの服を被り、外に飛び出した。



 それがカズと私、アンジェラ・インフォムの出会いだった。

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