第100話 番外編 マリアちゃんは魔王を倒したい Priestessys

わたしは美少女のマリア。

長くきれいな銀色の髪に、長い耳はハイ=エルフの証し。

これだけの美少女は、なかなかいないと自負しているわ。

えっへん。


そんな、わたしだから当然だけど恋人もいるわ。

ユーリーっていう名前なのだけれど、彼はわたしに相応しく、これまたすっごーい美少年なのよ。

ふふん、どうよ。


そして、わたしは私立ながやま幼稚園でトップの成績を修めて卒園式を明日にひかえた夜、ユーリーの家にパパとママと一緒に泊まっていた。

だけど、その日の夜、わたしの大事なラブリーマイスイートダーリンのユーリーが悪い魔王にさらわれてしまった…。


ユーリーのパパとママ、つまり、おじ様とおば様が慌ただしく私のパパとママと話をしているのをこっそりと聞いていたわたしは、パパたちにユーリーを助けに行って来るわと宣言して、止めるのも聞かずに家を飛び出して、ひとり村の近くにある魔王城という名の廃城へと向かい、扉をギギギと開けて中に入っていったのだった。


魔王城に入ると、月の光が差し込んでいて思ったより明るかった。

石畳はとても綺麗でホコリひとつ落ちてなく、それは家具なども同じだった。

わたしは、土の付いた靴のまま土足でその石畳を歩く。


「何かいいアイテムは置いてないかしら」


魔王城一階に置かれている家具を、片っぱしから開けて中をのぞいていった。

しかし、結局、何もなかった。


「とんでもない貧乏な魔王なのかもしれないわね」


『だーれが貧乏魔王よっ!』


どこからともなく声がした。


「あなたは、たぶん魔王ねっ!」


『いや、たぶんも何も、この状況なら魔王しかいないでしょ…』

『まぁ、いいわ』

『よく来たわね、マリア』

『あなたのラブリーマイスイートダーリンであるユーリーはこの城の最上階にいるわ』

『まぁ、最上階といっても3階だけどね』

『2階にいる、わたしの最強の使い魔を倒せるかしら』

『倒せなければ、ユーリーはわたしがもらっていくわ』

『きゃー、言っちゃった言っちゃった』

『こほん』

『ともかく、せいぜい頑張ることね』


魔王は言いたいことだ言うと、声が聞こえなくなった。


「ふん。やってやろうじゃないの」

「待っててユーリー。あなたの愛しのマリアが必ず助けにいくわ」


そう言って、私は階段めがけて走りだして、そして、こけた。


ちょっと赤くなったひざをさすりながら、わたしは2階のボスと思しき扉の前に立っている。

もちろん、他の部屋もぶっしょくは既に済んでいて、隠し扉の中に置かれていたワンドを手に持って。

そして、ギギギという音とともに扉を開けて中へと入った。


「うわぁ。ひろーい」


いったい、なん十畳の広さがあるのだろう。


「わたしも、このくらいの部屋が欲しいなぁ」


そんなことを言ってからまもなく、そいつはあらわれた。


「ぶよぶよ~ん」


それは、みごとなまでの大きさのプヨリンだった。

ブヨリンと呼んだ方がいいのかもしれない。

そんなやつだった。


「たしかに、魔王がえらそうに言うだけあって、けっこう強そうね」

「だけど、私立ながやま幼稚園をトップの成績で卒園式をひかえた、わたしの相手ではないわ」

「ファイアストーム!」


「ぶよぶよ~ん…」


ブヨリンは、あっさりと倒された。

わたしは、この部屋をぶっしょくしていやしの葉を手に入れるとひざのキズをなおして、3階へと向かって行ったのだった。

3階にとうちゃくして、すぐ目の前にある扉にはこう書かれていた。


【魔王アイラは、ただいま在室中】

【部屋に入るときは、ぜったいにノックしてから入ってね♡】


わたしは、この部屋を無視して、ほかの部屋をぶっしょくすることにした。

どうかんがえても、あれは罠にちがいない。


「きっと、ほかに魔王の部屋につながっている扉があるはず」


わたしは、ほかの部屋をぶっしょくしながら探しまくった。

でも、そんな部屋は見つからず、そして、さいごの部屋のかたすみに、一枚の紙がおかれていた。


「なになに…」

「いま、わたしが何をしていると思う?」

「ユーリーとふたりっきりで…」


「しまった!あれは罠じゃなかったのね」


わたしは、紙をびりびりにやぶりすてると、魔王の部屋へとかけだし、そして、またこけた。

ひざをさすりながら、魔王の部屋へたどり着くと、わたしはバンと扉を開けた。


「わっ!びっくりしたぁ…」

「扉の注意を読まなかったの!?ノックしてって書いてたでしょ!」


「ユーリーを連れ去ったやつの言うことなんて聞くわけないでしょ」

「さぁ、ユーリーをかえしなさ…って、何やってるの!?ユーリー」


ユーリーは魔王とキッスする直前であった。


「え!?あれ?マリアちゃん!?」

「それじゃあ、きみはいったい誰なの!?」


「ちっ…あともう一歩だったのに」


魔王は、ユーリーから離れると、手で髪をなびかせたあと偉そうに腰に手をあてた。


「そう、わたしはマリアだけどマリアじゃないわ」

「魔王アイラ、ダーク・ハイ=エルフのアイラよ!」

「よく来たわね、マリア」

「でも、残念だけど、あなたではわたしを倒すことは出来ないわ」

「なぜなら…」


「ファイアボール!」


「ちょっ!?」


わたしはファイアボールを放ったのに、なぜかわたしもダメージを受けて倒れた。


「あいたたた…ちょっと!話は最後まで聞きなさいよ!」


魔王アイラは、ちょっとこげ臭くなった髪をバサバサと両手ではらいながら立ち上がる。

そして、ヒールを唱えた。

すると、どうしたことか、わたしのキズもなおった。


「本当に話を聞かない子ね」

「流石はわたし」


「どういうこと!?」


「わたしはあなた、あなたはわたし」

「あなたとわたしは元々ひとつだったの」

「でも、あなたは魔法を使いたいがばかりに、魔法適正のないわたしを捨てた」


「捨てたって、わたしは何もしてないわよ」


そう言ったあと、思い出した。

実家の絶対に入ってはいけないっていう張り紙のはられた部屋に入って、何かよく分からないボタンを押したことを。


「思い出したようね」

「だから、わたしを捨てたあなたからユーリーを奪ってやるって心に決めたの」


そう言うと、魔王アイラはユーリーの顔を自身のまったく平らな胸に押し当てた。


「ちょっ!ユーリーからはなれなさいよ!このどろぼう猫!」


「ふふ、魔法をうってみなさいよ。今度はユーリーもきずつくわよ」


「くっ!…ひきょうものめー!」


「さぁ、ユーリー、今度こそ熱いキッスをするわよ」


「ちょっと待って」


もう少しで、アイラとキッスするところまで顔が近づいたところで、ユーリーはまったをかけた。


「僕は君とはキッスできないよ」


「どうして?わたしもマリアなのよ」

「あなたのラブリーマイスイートハニーのマリアなのよ」


「ちがうよ」


ユーリーは、魔王アイラをきょぜつした。


「そうだそうだ、マリアはわたしだけよ!」

「さぁ、ユーリー、いっしょに帰りましょ」


わたしは、ユーリーに向かって手をだした。

でも、ユーリーは首をよこに振るだけだった。


「きみも、マリアじゃないよ」


「なんで!?どうしてなの!?」


「ぼくの好きなマリアは、いつも自信過剰で、すぐ調子に乗って失敗して、運動も出来ないし、かといって魔法を使うことも全く出来ないし、ぼくが他の女の子と話をするだけで凄い顔をして『ユーリーあの子と何を話してたのぉ?』って顔を近づけてくるし…」


あれ?わたし、ユーリーに好かれる要素、全く無くない?


「でも、本当に困った人を見捨てない優しい心を持っている」

「だから…」


ユーリーは、魔王アイラの手を取り、そして、わたしの手を取って、握手をさせた。


「一緒に帰ろう」


こうして、わたし達は互いを見つめ合い、そして、また一つになった。


………。


「ん…」


「あ、お姉ちゃん起きたよ」


目が覚めると、私の目の前にはユーリーとノルがいた。


「そろそろ、宿屋の食堂に朝食を食べに行こうと思うから起きてね」


そう言われて、私は上半身を起こすとジッと両手を見た。


「どうしたの?」


「卒園式前日の事を夢で見ていたの」


「あぁ、あの時の…唯一本当の魔法を放ってた頃のことだね」

「最後の卒園試験でファイアストームを放ったことで、一気に主席卒園になった」


「そう、それ」


「もしかして、一つに戻って後悔しているの?」


「それは無いわ。だって、彼女の力が無ければ、私は普通の魔法使いだっただろうし、本物の魔王を倒すことなんて出来なかったわ」

「私の信仰心と彼女の信仰心が掛け合わさって、今の私の信仰心があるのだから」


「そうだね」


私達の会話にノルだけ付いて行けず、頭の上にはてなマークが付いていた。


「朝食をしながらお話してあげるわ、ノル」


「うん!」


「ところで、今日の予定だけど」


「東の港町ノープルまで行くんでしょ?」


「うん、実はそこに最近迷宮が出現したらしくて」


「へぇ、それは興味深いわね」


そんな、話をしながら私達は宿屋の部屋を後にした。

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マリア様は魔王になりたい - Crimson World Mars III -  福田牛涎 @san_mulen

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