第88話 魔王の地下迷宮 その2

扉を開けて中に入ると、そこは見渡しても部屋の全貌が分からないほど、広大な部屋だった。

カヤさんのライトの魔法で照らしも天井は薄っすらと見える程度で、奥行に関しては全く分からない。

左右の壁についても同様に真っ暗で何も見えなかった。


「凄く広い部屋ですね…」


そう言いながら前を歩こうとした時、カヤさんとクラスさんの二人によって制止させられてしまった。


「今、何かが見えた」


「忍者が居ます…2体…それに」


敵の集団は少しずつ私たちの方に近づいて来ていて、その全貌が分かるまでそれほど時間を要しなかった。


「レッサーロード1体、忍者2体、コドモドラゴン4体、ハイ・プリースト1体、ウィザード1体の…げっ…9体!?」


チサトさんは、予想外の数に非常に驚いていた。


「まだ、魔法の間合いに入ってないから大丈夫だ」

「とりあえず、チサトは近接戦闘でレッサーロードの相手をしてくれ」


「了解や」


「カヤさんは忍者2体を」


「承知しました」


「俺はマジックシールドを全体に展開するから、マリアちゃんはコールドストームでコドモドラゴンを一掃してくれ」


「分かりました」


「で、ノルちゃんは恐慌悲鳴をよろしく」


「がんばる」


こうして戦闘が始まり、最初に動いたのはカヤさん。

忍者に一気に距離を詰めると、一刀両断で忍者のうち1体をあっさりと仕留めた。

残りの忍者は、あまりの事に動揺して逃げようとしたが、床の石のわずかな隙間に足を取られて転倒して失敗に終わり、それによってカヤさんの追撃を許すこととなり、最初の1体目と同様一刀両断により絶命した。


次に動いたのはチサトさん。

両手に脇差を持ち、二刀を巧みに操ってレッサーロードを攻撃、一刀目はレッサーロードの盾によって阻まれ、二刀目の攻撃は見事に命中したものの鎧によって阻まれた。

三刀目、四刀目、五刀目とも、同様に鎧によって阻まれたことから、後ろに下がりつつ矢を放った。

矢は鎧の隙間に命中し、レッサーロードは盾を持つ方の腕を負傷した。


「なんちゅう硬さや」


次に動いたのはレッサーロード。

一番近くに居たチサトさんを剣で攻撃し、一回目は間一髪後ろに飛んで避けたものの、続けて二回目の右から左への横からの攻撃を受け刀で防御したものの、大きく左に吹き飛ばされて床に叩きつけられた。


「くぅ…痛ったぁ!」


そう言いながら、チサトさんは左腕を気にしながら立ち上がった。


次に動いたのはノル。

大きく悲鳴を上げると、コドモドラゴンの4体全てがギャアギャアと叫びながら恐怖におののき、ハイ・プリーストもビクッと体を震わせた。


「おお、ナイス」


クラスさんはそう言うと、エリア・マジックシールドを張った。


「じゃあ、後は頼むぜ」


「はい」


と答えた私は、コールドストームを放った。

これにより、コドモドラゴン4体全てが絶命し、レッサーロードは床に肘をつくほど大きなダメージを受け、ハイ・プリーストとウィザードはとりあえずダメージは受けたようだけど、まだ余裕はありそうだった。


次に動いたのはウィザードで、杖を上に掲げるとファイアストームを放った。

クラスさんがマジックシールドを張っていなければ、巨大な渦の炎が直撃するところであった。


「くっ!」


私は、外套の袖で顔を隠して熱風を持ちこたえ、他のみんなもそれぞれの方法で持ちこたえたのでダメージは無い。

ノルは、カヤさんが盾になってくれたので、同様にダメージは受けていなかった。


ちなみに、ハイ・プリーストは恐慌状態に陥ったままで、何もしてこなかった。


これで、残りはレッサーロードとハイ・プリースト、そしてウィザードの3体となった。

先に動いたのはカヤさんで、瀕死のレッサーロードに止めの一撃を与えた。


次に動いたのはチサトさんで、ウィザードに対し弓を6連射して3本の矢が中り、そのうちの1本が首に突き刺さった事が致命傷となってウィザードは絶命した。


次に動いたのはクラスさんで、ハイ・プリーストにファイアアローを7連射して、そのうちの4本が中ったが流石に魔法抵抗力が高いようで、まだ絶命するまでには至らなかった。


そして次に動いたのはハイ・プリースト。

ハイ・プリーストは、私に奪命テイクライフを放った。


「…っ!…ってあれ?」


特に何も起きなかった。

そのため、私はハイ・プリーストにファイアアローを13連射して、うち6本が当たって遂に絶命した。

これにより、私たちは戦闘に勝利したのだった。


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「ったく、クラスが倒してたらあんな危険なかったんやで」


「悪かったって、次の戦闘のことも考えて7連射にしてしまったんだよ」

「マリアちゃん、本当に済まない」


「いえ、何ともなかったんですし」


「いや、あの場面は本当に俺のミスだ」

「次では必ず、その恥をすすぐつもりだ」

「というわけで、次の土曜日に一緒にお茶しよう」


そう言って、私の手に触れようとしたので、ぺちん、と手の甲を叩いてやった。


「ははは、振られてやんのぉ」


チサトさんは、両手を頭の後ろに組んでカラカラと笑った。


結局のところ、ハイ・プリーストの放った奪命テイクライフは命中率が極端に低く、たとえ当たったとしても直ぐに死ぬわけではないらしい。

単純にハイ・プリーストは、私にダメージを与え、かつ自分の体力を回復させたかったようだ。


その後、この広大な部屋からなんとか隠し扉を見つけ、無事にエレベーターの動力スイッチを起動させることに成功し、そのままエレベーターに乗って1階まで帰って来た。


------


「というか、ユーリーが居れば、もっと楽に勝てたのに…」


私は、頬を膨らませながら布団に入ったが、疲れもあってあっさりと眠りに就いたのだった。

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