第83話 緊急クエスト その5

(えっ!?神様!?あれ?ここは…夢の中?)


『当たっているようで、ハズレかな』

『今は、君の中にある精神世界で会話しているのさ』

『ここは時間の概念が無い世界だから、向こうでの時間を気にする必要はないよ』

『まぁ、それはともかくとして、君に尋ねたいことは一つさ』

『諦めて奴に服従するのか、それとも抗って新たな道を開くのか』


(もちろん、後者です)

(しかし…今の私には…そのような力がありません…)


『君は力が無いって言うけど、じゃあ、どうして今まで火属性魔法・・・・・が使えていたんだい?』

『魔法の適性なんて全く無い・・・・し、魔力だって未だにG(ゼロ)のままだというのに』


(それは…あの魔法書に書かれているとおりにしたら出来ただけで…)


『そうだね。それで今まで上手くやって来たんだよね』

『じゃあ、今回もそれでやったら良いんじゃないかな』

『うってつけのが書いてあるじゃないか』


(でも、あれは…)


『じゃあさ、このまま何もせずに、自分の大事な人達…君の場合は、特にあの少年かな』

『何もしなければ、彼は今日あの場所で死ぬよ?』

『それでも良いのかい?』

『まぁ、君だけ・・は命は助かるだろうから、彼の命なんて・・・どうでも良いかな?』

『………』

『うんうん、良いね。その瞳』

『じゃあ、やってみようか』


------


はっ!と我に返った時には、既に現実に引き戻されていた。

神様の言うとおり、全く時間は経っていないようだった。

私は、右手の掌を魔王に向ける。


「くっくっく、何のつもりだ?」

「今更、お前に出来ることは何もないだろうに」


相変わらず、ムカつく下卑た顔をしながら私に対して言ってくる。


「あら、もしかして、私の魔法が怖いのかしら?」


私も負けじと、ヒロインとして見せてはいけないような下卑た笑みを浮かべながら、魔王を見下すように。


「なんだと?」


よし、食いついた。

魔王だけあって、自分の魔法に余程の自信があるのだろう。

流石にカチンと来たようだ。


「ふん、良かろう」

「では、俺とお前の魔法、どちらが優れているか勝負と行こうじゃないか」


「望むところよ」


上手くいった。

これで、私が魔法を発動させるための時間稼ぎが出来る。


いにしえたる深淵の王よ。今こそ解呪の時なり。我は深淵を覗く者なり。名はマリア・E・オーディンスヴェトゥワ。いにしえの禁呪を継承し操りし者なり。いにしえより約束されしことわりなり。此処ここことわりを具現せしめよ。具現せし深淵の炎をっての者を焼き尽くせ。禁呪の名は魔術を破壊する者ウィザルド・デストロイヤー


くぅ…自分で言っていて恥ずかしい!!!


「くっくっく、なんだ、それは」

「呪文の詠唱のつもりか?」

「まぁいい。それで、準備は終わったのか?」


「ええ」


「ならば、お前の大事な物が奪われる様をこの目に焼き付けるがいい」

「メテオ・ストーム!」


「ウィザルド・デストロイヤー!」


魔王の放ったそれは、上空に無数の空間の歪を発生させ、そこから灼熱の炎をまとった隕石が顔を出し、それらが私たちに向かって一斉に落ちてきた。

しかし、それらの隕石は全て私が上空に出現させた無数の空間の歪へと飲み込まれていく。


「なっ!なんだとっ!」

「なんなんだ!その魔法はっ!!!」

「だが、そのような魔法。連続で撃つ事は出来まい」


そう言うと、魔王は再びメテオ・ストームを撃とうとしたのであるが、自身の周辺に異変が起きていることに気が付く。


「何だ!?どういうことだ!?私のゴッズシールドが消えている………だと!?」


そして、そのゴッズシールドの代わりに、魔王の周囲には新たに別の障壁が形成された。

程なく、その障壁の中で無数の空間の歪が出来き、そこから現れたのは魔王自身が放った灼熱の炎をまとった隕石であった。


「馬鹿な!…こんな馬鹿な事があるのかっ!?」

「ぐああああああああああああああああ!!!」


次々と無数の隕石が魔王を襲い、成すすべもなく魔王はそれらを浴びることになった。

しかし次の瞬間、魔王の周囲に形成されていた障壁が、パパが放った衝撃波によって打ち破られた。

パパはすぐさま魔王に駆け寄ると、腰に掛けていた鞄からスクロールを取り出し、魔王の前で広げる。

うめき声を上げて瀕死の状態であった魔王であったが、次第に表情が和らいだのだった。

更には、その魔王をお姫様抱っこすると再びスクロールを取り出し、今度は自身の目の前に放り投げた。

スクロールが燃えて消え去ると同時に空間の歪が出来き、パパは私を一瞥したあとそこへと入り消え去ったのだった。


------


「ともかく、助かったで。マリアちゃん」


「あぁ、本当に。流石は、俺のマイハニーだけの事はある」


そう言って、クラスさんは私の手を握って来たけれど、今の私にはそれを拒絶する気力も無く受け入れていた。


「あー…えっと…いつものようにして欲しかったなぁ…なんて」


クラスさんは、そう言って気まずそうにして手を離した。


「アホ…」


チサトさんは、そんなクラスさんに溜息をまじりに言う。


「済みません。私が彼を上手く引き付けておけなかったばかりに」


戻って来たカヤさんは私に謝罪するが、そもそもカヤさんは何も悪くない。

悪いのは、全てパパなのだから。

そう思っていると、私の手をユーリーとノルが取った。


「ありがとう。お姉ちゃんのおかげで、みんな無事だよ」


「そうだよ。マリアが居なかったら、みんな命が無かったんだから」

「さ、元気をだして。」


ユーリーに促されて、立ち上がる。


「んじゃ、眠ってる冒険者一行が起きたら帰ろか」


「いや、それはリーダーである俺の台詞だろ」


「そやったっけ、まぁええやん、細かい事は」


チサトさんの言葉に、一同は笑顔になった。


「そうですね……あれ?…なんか……目の前がぐらぐらと……あ…れ………れ?………」


そして、私の意識は遠のいていった。

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