第82話 緊急クエスト その4 ペロペロ出来なかった

どうして‥‥‥パパとママがここにいるの!?


と、口を開こうとした瞬間、ユーリーは私の口を両手で塞いだ。


「だっ、駄目だよマリア。他の冒険者もいるんだから」


ユーリーが、私の耳元で囁く。

そうだった、危ない危ない。

私は、理解したと小刻みに2回首を縦に振って、それを確認してからユーリーは口を塞いでいた両手を離した。


「あぁ…そうであったな。ならば、こうしよう」


ママは、そう言うと左手を5人の冒険者へと向ける。

次の瞬間、冒険者たちは次々と意識を失い倒れて行った。


「だっ!…大丈夫ですか!?」


私は、一番近くで倒れ込んだ冒険者の肩を揺さぶる。

しかし、ぐったりとしたままで返事は無かった。


「何をしたのっ!ママ!」


私の言葉に、クラスさんとチサトさんは驚きの表情に変わる。


「ふん、安心するがいい。ただ眠らせただけだ」

「これで、心置きなく話が出来るであろう?」


ママは、下卑た目で薄笑いを浮かべながら言う。

おかしい‥‥ママは確かにどうしようも無い程ぐうたらで、人使いの荒い人だけれど、こんな事をするような人ではない。


「そうね。とりあえず、貴方たちは一体何者なの?」

「ママの姿をして私を惑わしたいのだろうけれど、ママはこんな事をするような人じゃないことは私が一番良く知っているわ」


私の言葉に『ふっ』と相も変わらず下卑た笑みで私を見下すように眺めた後、口を開いた。


「確かに、俺は・・お前の母親ではない」

「もっとも、この体自体・・・はお前の母親のものだがな」

「あと、こいつもな」


そう言うと、ママを乗っ取っている敵は右の親指でパパを差した。


「えっ!?パパも操られているっていうの?」


「いや、俺は誰にも操られてはいない」


「それなら私たちと一緒に、ママに憑りついている悪魔を追い払いましょ」


「こいつは今、ニーニャと魂が融合している状態だから、外部からの干渉では不可能だ」

「こいつが自主的にニーニャから離れるのであれば、話は別だが」


「……というわけだ」


「そんな…」


じゃあ、どうすればいいって言うの…。


「あぁ。そうそう、自己紹介がまだであったな」


おれの名はデスガルド。かつて、この世界で魔王と恐れられた存在だ」

「こいつらに狩られかけたが、死ぬ間際にギリギリこいつの体の中に逃げ込むことに成功してな」

「本当は、お前がこいつの胎内にいる時に憑依するつもりだったのだが、あまりにも魔法の才能が無さ過ぎてな…こいつの体を乗っ取ること変更したのだが…」

「こいつは長生きしているだけあって魔法抵抗が異常に高くてな…相当手こずったがようやく俺の支配下に置けた、というわけだ」

「まぁ、そんなところだな」

「体を乗っ取るのを止めたとはいえ、お前の様子はずっと水晶球で見ていたぞ?」

おれが見誤るとは自分でも信じられんのだが、どうやらお前には後天的な魔法の才があったようだ」


「?」


「察しの悪い娘だな………仕方がない、端的に言ってやろう」

「お前は、こいつの次に憑依する体・・・・・・・に選ばれたのだ」

「さぁ、おれひざまずき配下となれ」

「そうすれば、そ奴らの命を取らないでおいてやる」


相変わらず下卑た笑みを浮かべながら、手を差し出してきた。


何なの、こいつ。

さっきから自分の言いたい放題言って。

怒りに震えていると、私の手をノルが握ってきた。


「お姉ちゃん…行ってしまうの?」


「大丈夫よ。私はどこにも行かないわ」


その言葉に、ノルは分かったと言って微笑んだ。


「だーれが、貴方なんかに付いて行くもんですか!」

「べぇーーーっ!」

「そして、食らえっ!ファイアストーム!」


私は、ありったけの力を込めて放った。

炎の渦が魔王の体を飲み込み、更に激しく燃え上がる。


「ふふふ、ふははははははっ!」

ぬるい!ぬるすぎるなぁ!」


魔王がそう言った瞬間、私の放ったファイアストームは一瞬のうちに消え去った。


「まぁ…全く才能の欠片も無かった頃を考えれば、予想を遥かに上回る威力だ」

「ますます興味がわいた。是が非でもお前が欲しくなった」


「だから、付いて行かないって言ってるでしょ!あっかんべーーーっ!!!」


そんな私を、みんなは苦笑いをしながら見ていた。


「まぁ、とりあえず事情は大体分かったよ」


クラスさんが私の前に陣取って言う。


「ふん…お前はこの中で一番賢そうに見えたのだがなぁ」

「まぁ良かろう…」

「おい。こ奴の相手は任せたぞ」


魔王は、顎でカヤさんを差した。

次の瞬間、パパの姿が消えた。


キン。


その音と共に、気が付いた時にはカヤさんと剣を交えながら私たちから遠く離れて行っていた。

離れて行く瞬間、パパの視線を感じたような気がしたけれど‥‥恐らく気のせいだろう。


「では、おれは先ほどのお返しに、同じファイアストームをくれてやろう」


「マズい!」

「チサト、マリアちゃんのところまで下がれ!」


クラスさんはそう言うと、数十ものマジックシールドを私たちの周囲に展開し始めた。


「くくっ、おれが小娘と話をしている間に、既にこうなると読んでいたか」

「まぁ、良いだろう」

「食らうがいい、俺のファイアストームを!」


魔王が放ったファイアストームは、私の比ではなかった。

10倍…いや、それ以上あるに違いなかった。

天井にすら届きそうなそれは、私たちの周囲を取り囲み、次々とクラスさんの張ったマジックシールドを粉々に打ち砕いていく。


「くっ!…チサトのマジックブーストを使っても、これかよ」

「しかも、中級魔法のファイアストームでしかない、というのに!」


クラスさんは引き続きマジックシールドを展開し続けているが、それよりも早くファイアストームの炎の渦がそれを砕いていく。

幸運な事に残り数枚となったところで、それはようやく収まった。


「ほぅ、中々やるな」


宙に浮いた魔王は、余裕の笑みを浮かべながら私たちを見下ろす。


「しかし、なんだ…。あの威力は…恐らく彼女…マリアちゃんのお母さんの力なんだろうが…ヤバいくらいの魔力量だな………」


「そんな…ママはいつもぐうたらで、働いた事なんて全くと言っていいほど無かったわ…あんな力があるわけ……」


「それは、見せかけってやつだな。能ある鷹は爪を隠すってな」

「ともかく、俺の魔力は、もう半分も残って無い」


クラスさんは、ひきつった笑顔をしながら言う。

つまり、次に同じファイアストームを放たれたら、完全に防ぐことはもう出来ないという事だ。

少し離れたところでは、パパとカヤさんが戦っているけれど、見えている限りでは恐らく互角だと感じた。

殆ど何をしているのか見えないけれど。

ともかく、カヤさんの助力は全くあてに出来そうにない。


「最後に、もう一度チャンスをくれてやろう」

おれと一緒に来い。そうすれば、仲間は全員助けてやろう」


魔王は、そう言って手を前に差し出した。

私は、その誘惑に負けそうになって手を出そうとした瞬間、それを遮るように手首を掴んで止めた者がいた。


「駄目だよ。マリア」


「ユーリー…でも…私が行けば、みんなが…」


「助からないよ」


「えっ!?」


「仮に今助かったとしても、近い将来、結局あの魔王に殺されることになる」

「早いか遅いかだけで、結果は変わりはしない」


ユーリーの言葉に、私は手を引っ込めた。


「全く…余計な事を…」

「まぁいい。ならば、今、その期待に応えるとしよう」

「最大火力の最高の火属性魔法でな」


「させへんで!」


チサトさんは、二振りの脇差を手に魔王に向かって直進、無数の連続攻撃を行った。


「ふふふ、無駄だよ」


魔王の周囲には、見たこともないシールドが既に張られていた。


「メテオストライクと双璧をなす防御魔法、ゴッズシールド」


クラスさんは言う。


「つまりは、アレを壊すには…最高位魔法でなければ駄目ってことさ」


苦笑いをしながら、クラスさんは続けて言った。


「そのとおり。まぁ、彼女も分かっているのだろうがね」


「うっさいわ!そんな少女みたいな体を乗っ取って、このロリコン変態野郎が!」


チサトさんは、煽るように罵るが魔王は涼しい顔をして冷静なままであった。


「ふふふ。まぁ、見た目はそうかも知れんが、もう1万年以上は生きている体だから、その例えは正確ではないね」

「さて、お遊びも、もうここまでだ」


「ちっ!」


「チサト戻れっ!」


チサトさんは舌打ちをし、クラスさんは無駄だと分かっていながら全魔力を使ってマジックシールドを展開している。


‥‥私に‥‥もっと力があれば良かったのに‥‥‥。


『んじゃあさ、使えばいいじゃん。その力とやらを』


私の頭の中に語りかけてきたのは、よく聞き知った声であった。

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