第81話 緊急クエスト その3

洞窟内は、前に退治したゴブリンたちのいた洞窟より更に幅が広く、そして広大だった。

壁や天井が、松明の明かりだけでは到底全貌を見ることが出来ないほどに。

そこでカヤさんのライトの魔法の出番であったが、それでも壁や天井が薄っすらと見えるだけだった。

歩みを進めて行くうちに、床に粗末な出来の剣や弓、盾が落ちているのを目にする。

恐らくオーガの取り巻きの装備ものだったのだろう。


「雑魚のゴブリン、オーク、コボルドを倒して、後はオーガ1匹…って思ってたら3匹も居たってオチ、なんやろな」


「だろうな。依頼書の情報を鵜呑みにして、油断してたんだろうな」


チサトさんとクラスさんは、そんな会話をしながらも、周囲への警戒を怠らない。

私たちもそれに倣って、周囲を警戒しながら歩みを進めた。

カヤさんは…と言えば、洞窟内に潜んでいるとされる2体を警戒しているようだった。


「どうやら、御出ましのようや」


チサトさんは先制攻撃で弓を放ち、それはオーガの大腿部に突き刺さった。

オーガが痛みで吠えている間にカヤさんは前衛に移り、クラスさんが後衛に移動。

中衛の私は、後々使用するであろう回復呪文のために温存、防御に徹する。

同じく中衛のノルは、悲鳴というスキルを持っているのだけれどオーガには効かないらしく、私同様防御に専念する事になった。

その私たち二人を護衛するのが、ユーリーの役目だ。


「さぁて、少しは楽しませてくれよ。オーガ君」

沼地獄ボロアッド…からの、ウインドカッター27連発!」


オーガは足元のぬかるみにハマり、身動きが取れなくなったところでウインドカッターが次々に襲い掛かった。

そして、そのうちの1発が右目に直撃して、悶絶の表情と悲鳴を上げた。


「凄い…種類の異なる魔法をわずかな間に連発で放ったわ…どうやったのかしら」


「それはな…よっと!」


チサトさんの放った矢がオーガの左目を直撃、結果両目を失ったオーガは両手を顔にあてがって苦しみの悲鳴を更に上げた。


「最初の魔法は、オーガを視界にとらえて後衛に移ってる間に、既に放ってたんや」

「で、あいつ戦闘前に言うてたやろ?楽しませろとか」

「あれ言うている間に、27連撃放つための力を溜めこんでたんや」

「後は、まるで違う魔法を連発で放っているかのように口にする、っちゅうわけやな」


なるほど、と納得している間に、カヤさんがとどめの一撃を放ってオーガは倒れた。

そして、程なく光の粒となって消えていった。


「カヤさんが居ると、うちは矢放ってるだけでいいから楽でええわ」


チサトさんは、カラカラと笑いながら言う。


「じゃあ、次に行くか」


私たち一行は、更に洞窟の奥へと歩みを進める。

程なく突き当りにぶつかり、壁沿いに右に向かって歩みを進めて100m程歩いたところで、地図のとおり左側‥‥つまり奥へと繋がる空間が広がった。

しかし、そちらの方には用は無い。

そのまま、真っすぐ歩みを進め更に200mほど歩みを進めたところで、前方に黒い影が2つ視界に入る。

黒い影も私たちに気付いたのか近づいてきた。


「じゃあ、俺達は左の方をやるから、カヤさんは右のやつを頼む」


「承知しました」


「で、マリアちゃんたちは、俺たちの間を突き抜けて、その先に居る冒険者の救護を頼む」

「あ、地面には気を付けてくれ。例のやつ放つから」


「分かりました」


「じゃあ、行っくでぇ!」


チサトさんは弓を肩にかけると、左右の腰に差している脇差と呼ばれる和国の刀を抜き、オーガに向かって走って突き進んでいった。

同時にカヤさんも、もう一方のオーガへと向かって走り出す。

二人がオーガと剣を交わすのを確認してから、私たちはその間をすり抜けるように走った。

クラスさんが放った、なんとかっていう泥にハマらないように気を付けながら。


洞窟の奥まで突き抜けた私たちは、程なくオーガが入れないほど細い隙間を見つける。

腰に差していたランプを手に持って前方を照らすと、その先から冒険者と思わしき声が聞こえて来た。

例の場所と確信した私たちはその隙間を進み、そして、少し開けた空間に出ると情報どおり5人の冒険者がそこに居た。


私は負傷している冒険者にヒールの魔法を唱えながら、脱出方法について説明をする。

私たちが冒険者を引き連れて戻って来た頃には、既にオーガは2体とも倒されていた。


「お、無事に戻ってきたようやな」


「あぁ、そのようだな」


「ご無事で何よりです」


三者三様の言葉で、私たちを迎えてくれた。


そして、その帰り道。


入って来た時と同様、一番前にはクラスさんとチサトさん、一番後ろの殿しんがりをがカヤさんが引き受け、私たちと冒険者5人はその間の中衛、という陣形で走る。

しかし、無事に洞窟の入口まで到着…とはいかなかった。

まだ小さく見える洞窟の入口に、2つの人影が見えたからだ。


「ちっ…まぁ、何となく分かっちゃいたけどな」


クラスさんは舌打ちをしながらそう言い放つ。

チサトさんも『まぁな』と言って弓を構えた。

私は、カヤさんに話しかけようと振り向いた時、異様な光景を目にすることになる。


「えっ?えっ?カヤ…さん……ですよね?」


そこにいたのは、いつものカヤさんでは無かった。

本来、肩までしかないはずの髪は腰まで伸び、髪の色も銀髪のように光り輝いていた。

何よりも驚いたのは、けものミミとシッポが生えていたことだ。


「マリアさん。私たちが彼らの気を引いている間に、皆さんを連れて洞窟の外に逃げて下さい」


そう言うとカヤさんは、クラスさん達のいる前衛に移動した。


「私たち…ってことは、俺達も含まれてるってことでいいのかな?」


「はい。私だけでは、手に負えませんので」


「色々ツッコミたいところが多々あるけど、それは後回しやな」


三人を前衛として、再び少しずつ洞窟の外へと歩みを進める。

そして、洞窟の入口間近まで進んだ時、影に過ぎなかった2つの姿がハッキリとその目に映ったのだった。

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