第80話 緊急クエスト その2
村に着き、依頼を出してきた冒険者に話を訊くと直ぐに出発して、現在は洞窟近くの山道を登っているところだ。
先頭を歩くのはクラスさんとチサトさん。
二人の後ろを私とユーリー、ノルの三人が歩き、
「ちっ…まさかオーガ3体とはな」
先頭を歩くクラスさんが舌打ちをする。
「せやな。アリシアさんは追加でオーガ討伐としか言わへんかったから、元々の依頼に書かれているとおり1体だけやと思ってたはずや」
「どうして隠す必要があったのかしら」
私は隣を歩くユーリーに訊いた。
「恐らくだけど…救援に誰も来てくれないかも知れないと、思ったからじゃないかな」
「正解だ。弟君」
「救援が来なければ、洞窟に取り残されているパーティが生きて帰る可能性はほぼゼロだろうからね」
「あと3体では済まないかも知れん」
「せやな」
「一応、その辺も考えて行動した方がええかもな」
そして、目的地の洞窟の入口まであともう少しのところで、少し開けた場所があったので休憩を取った。
「んじゃ、うちはちょい洞窟の入口付近を調べてくるわ」
チサトさんがそう言って立とうとした時、カヤさんが手を小さく挙げた。
「いえ、それは私がしてきましょう」
「ええんか?カヤさんは前衛やから休んでた方が」
「いえ、ご心配に及びません」
「慣れておりますので」
「まぁ…この中で一番レベルの高いカヤさんが言いはるんなら……せやったら、頼んます」
「はい。お任せください」
カヤさんは立ち上がると、足音も立てずに一瞬のうちに姿が見えなくなった。
「なっ!……なんや!あの速さはっ!」
「人としての限界超えてるで。
人じゃありませんので…。
とは言えず『ははは』と頬を人差し指でかきながら、乾いた笑いで誤魔化した。
直後、視線を感じてクラスさんの方を振り向くと、彼は涼しい笑顔で私の顔を眺めていた。
もしかして、カヤさんの正体に気付いている?
まさか…。
挙動不審に彼から目を逸らすのと時を同じくして、ノルが私の袖を引っ張った。
「ノル、どうしたの?」
「この辺にいる幽霊さんたちがざわついてるよ」
え!?何それ、怖い…。
私が見えていないだけで、周囲にいっぱいいるって言うの?
「そそ…それは、どういう風にざわついてるのかしら?」
思わず声が上ずってしまう。
「『怖い』『危ない』『近寄っちゃダメ』って言ってる。洞窟の中」
「それって、オーガが怖いって言う事かしら」
「いや、それはないよ」
そう言って、クラスさんが話に入って来た。
‥‥‥。
「なるほど…ね。ノルちゃんは肌が青白いから、もしかしたらと思っていたが」
「黙っていて済みません。騙すつもりはなかったんです」
「いや、むしろ助かった」
「えっ!?」
「浮遊霊たちが恐れるという事は洞窟の中にはオーガだけでなく、それ以外のモンスターもいるということだよ」
「例えばリッチィ…とかね。そういった存在は浮遊霊を糧にするから恐れるのさ」
「最悪の場合…魔族の可能性もあるな」
「となると…ますますヤバいな」
クラスさんは、そう言って舌打ちをする。
「それじゃあ、それもあの人は黙っていたという事ですか?」
「いや、それはないで」
「一応、うちは相手が嘘を吐いているかどうか、見極めるスキル持ってるからな」
「少なくとも意図的に隠していた、という事は無かったで」
そんな話をしているうちに、カヤさんが戻って来た。
そして、村で入手していた洞窟の地図を広げて説明を始める。
「入り口とその周辺には、何ら気配はありませんでした」
「洞窟内からは、ココとココとココに常時殺気を放っている者が3体、これが恐らくオーガと思われます」
「他に、この辺りに
「そして、場所は特定出来ませんでしたが、かなりの
「まるで見て来たかのように言うんやな。ほんまカヤさん
「その辺は俺も興味はあるが、今はそんなことより、これでハッキリしたな…」
「せやな…」
カヤさんが、頭の上にはてなマークを付けている感じに頭を傾げたので、いない間の出来事を話した。
「それは凄いですね。ノルさん。お手柄です」
そう言ってカヤさんはノルの頭を撫で、ノルは『えへへ』と照れ笑いを浮かべた。
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救出作戦は以下のように決まった。
1.洞窟の入口付近にいる1体のオーガを、奥にいる残りの2体に気付かれないように仕留める
2.残りの2体のうち1体はクラスさんとチサトさんが、もう1体はカヤさんが担当し、その隙に私たち三人が身を潜めている冒険者の下に駆けつけて治療を行う
3.オーガ2体を仕留めたら、冒険者たちと共に速やかに洞窟を脱出する
以上。
あとは、カヤさんの言われた洞窟内の何処かに潜んでいるという謎の二人が襲ってこないことを願うばかりだ。
最悪、戦う事になった場合は、カヤさんとクラスさんとチサトさんの三人が殿を担当することになっている。
「それじゃあ、行くか」
今回のパーティリーダーであるクラスさんは言い、私たちは洞窟の中へと足を踏み入れたのであった。
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