第78話 ウサミミとナガミミ

「えっと…あの…」


「ふふ、いきなりの事に驚かせてしまったかな?無理もない」

「俺のような…」


スパーーーーーーーーーン!!!


「後ろ…危ないですよ」


私がそう言い終わる前に、男の人の頭上に…えっと…なんだったかな…なんとかっていう武器が、それはもう勢いよく落ちた。

そのおかげで私の手を握っていた手が離れたので、脱兎のごとく距離をとるとユーリーの背中へと逃げこんだ。


「いやぁ、ごめんやでぇ」


カラカラと笑いながらチサトと呼ばれた女性は、そのなんとかという武器を自分の肩の上に載せた。


「全く君は…いつもいつも俺の恋路を邪魔してくれるな…」


「何言うてんねん。恋路もクソも、全く脈なんかあらへんやん」

「見てみい。彼女、恋人の後ろに隠れとるやん」


彼女は、そう言ってユーリーの方を指差す。


「はっはっは。彼は弟君だろ?どう見ても」


「いや、二人の左の薬指見てみいや。指輪しとるやん」


男の人は、私とユーリーの左手に視線を向けると、溜息を吐いた。


「あれは、ただの能力向上の指輪じゃないか」

「ねぇ、マイハニー」


と、私に視線を向けて言う。


「いえ、これは婚約指輪も兼ねております。ねぇ、ユーリー」


私はそう答えた後、右手でユーリーの背中を軽く叩いた。


「あ…はい、そうです。僕たちは婚約指輪代わりに、お互い能力向上の指輪を贈っているのです」


その瞬間男の人は崩れ去り、四つん這いになった。


「な…なんてことだ…これがネトラレと言うやつか!」


「んなわけあるかーっ!」


という彼女の声と共に、男の人の頭に再び例の武器が勢いよく落ちたのだった。


------


ギルドに併設している食堂にて。


「いやぁ、ほんまごめんやでぇ」


「いえ、大丈夫ですわ」

「それよりも…私達、お互い名前を名乗ったことが無いと思いますので…」


「そういえば、確かにそうだったな」

「俺は『クラスハンド・イヴサム』世界中の女性に愛を届ける伝道師さ」


そう言うが早いか、席を立つと身を乗り出して私の手を握ろうとしたので、手の甲をペチンと叩いてやった。


「あぁ…いいよ…なんて素晴らしい反応速度なんだ…」


そう言うと、何故かひとり悦に入った。

私の隣にいるユーリーもドン引きしているじゃない。


「はいはい、分かった分かった」


彼女はそう言うと、クラスハンドの首根っこを掴んで元の席に座らせる。


「うちは『チサト・エンドー』っていいます」

「肩にかけてる弓と矢で分かると思うけど『弓使い』しとります」

「よろしゅう頼んますわ」


そう言って、満面の笑みで手を差し出した。

私は、彼女の手を取って自己紹介をした。


「私は『マリア・E・オーディンスヴェトゥワ』魔法使いをしています」

「こちらが私の幼なじ…恋人…婚約者の『ユーリー・R・ウーサー』剣士です」


「宜しくお願いします」


「そして、こちらが『ジェラート・カヤ』さん。サムライで、私たちの家族の一人です」


「以後、お見知りおき下さい」


「最後に、最近私たちの家族の一員になりました『ノルドヴィカ・シンダッコ』ちゃんです」


「よろしくね、ウサミミのお姉さんと長い耳のお兄さん」


「よろしゅうな~」


「ああ、宜しく。あと3年ほど経ったら、俺が愛の素晴らしさを教えてあげるよ」


「それは、もうええっちゅうねん」


と、和気藹々と話が弾みだした頃、私の席の背後からドタドタという足音が響いてきた。


「なんや、なんかあったんかいな」


チサトさんの言葉と同時に私は後ろを振り向く。

息を切らせた女性が、ちょうどアリシアさんの下までやって来たところであった。

考えるまでもなく、先程の足音は彼女のものだろう。


「課長!大変です!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る