第77話 げえっ!

その日の夜、再びそれはやってきた。


「あわわわわわわわ…………」


尿意を催して夜中に目を覚まし廊下を歩いていた私は、中庭にいる彼らを目撃したあと一目散にユーリーを起こしに部屋へと舞い戻った。

ちなみに、お漏らしはしていないわ。

ともかく、必死になってユーリーを起こしカヤさんと合流してから、再び廊下の窓から中庭を見渡す。


「うわぁ…これは困ったことになったね」


「でしょう?どうしようと思って」


「確かに、ユーリーさんの言われるとおりですね。このままでは畑の苗を踏みつぶされてしまいます」


そっちの心配かーい、とツッコミを入れたかったけど、その時の私にそんな精神的な余裕はなかった。

しかも、ユーリーはカヤさんと同じ考えだったらしく『そうなんですよね』と答える始末。

そんな中、目をこすりながらノルが現れた。


「どうしたの?お姉ちゃん」


ノルは、あれから私の事をお姉ちゃんと呼ぶようになっていた。

なんて可愛いのかしら。

いえ、今はそれどころではなかったわ。


「また、中庭にゾンビたちが現れたのよ…困ったわ」


話しを聞いたノルは、つま先立ちをして窓の外から中庭をのぞき込む。

そして、私たちには分からない言葉で彼らに話しかけた。


「ウメ セドズ イヴ?」

「うんうんうん」

「アルアヤ イイニャ アイロヴ」

「うんうんうん」

「お姉ちゃん、あの人たち救って欲しいって言ってる」


「えっ!?あの人たちゾンビと会話できるの?」


「うん」


私たちが驚くのをよそに、ノルはなんてこともないという顔をした。


「とにかく、彼らの願いを叶えるわ」


こうして、私はエリア=エクソシスムを唱えて、彼らを浄化した。


「それにしても困ったわね……」


いきなり来られても、流石に困る。

お漏らしをするかも知れないとか、そんな事ではないわ、念のため。


「全て無くすことは出来ないけど、いい方法があるよ」


次の朝。

ユーリーの提案にそって、看板を製作して外から中庭への通路の中央に設置した。

ちなみに、その看板には死霊語でこう書かれているらしい。


『浄化の日は、毎週金曜日の26時。時間厳守でお願いします。管理人ノルドヴィカ・シンダッコ』

『あ、あと、畑には入らないでね』


------


看板を設置したその日の昼、私たちはジェンヌの街のギルドに足を運んでいた。

ノルの一件で何故か国王から報奨金が出るということで、アリシアさんから連絡があったからだ。


「あ、マリアちゃん。ご足労いただきありがとうございます」

「ユーリー君も、カヤさんも…えっと、彼女がノルドヴィカさん…で良いのよね?」


「彼女で間違いありません」


「はい、承知いたしました」

「それでは報奨金についてですが…こちらになります」


アリシアさんは報奨金について書き記された厚紙を両手に持ち、代表者の私に交付した。

その紙に記されている内容を見た私は、非常に驚いた。


「あわわわわわ…ユーリー…カヤさん…ノル…こ…これ…」


プルプル震えながら、それをみんなに見せる。


「お姉ちゃん、そのお金で不死身饅頭買える?」


と、ノルは呑気に言う。

ちなみに動揺して答えられないでいる私に代わってカヤさんが『好きなだけ買えますよ』と答えると『わーい』と、ものすごく喜んでいた。


「アリシアさん。本当にこれで間違いないのでしょうか?」


念のためユーリーが確認してくれた。

しかし、満面の笑みでアリシアさんは『間違いありませんよ』という返答をした。


「とりあえず金額も金額ですので、口座の方に入金しますね」

「えっと…明日中には入金されると思いますので、ご確認よろしくお願いします」


そういうわけで、私たちに思わぬ大金が舞い降りたのであった。

そして、心がふわふわとしながらギルドから出ようとしたところで、その二人は入って来た。


「あれ?なんや、あの時のお嬢ちゃんやん」


「ん?どうしたんだい、チサト…って!君はっ!」


「げえっ!」


私の反応とは正反対に…えっと名前なんだっけ?

その男の人はスタスタと目の前までやって来ると、私の手を取ると口を開く。


「やはり、君とは運命の赤い糸で結ばれていたんだね」

「結婚しよう」

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