第75話 彷徨いのバンシー その4

翌日の朝、はしたないくらい大きなあくびをしながら、私は居間に顔を出した。

どうせ居るのは気心の知れたユーリーとカヤさんだけだし、仮にノルが居たとしても、何の問題もない。


しかし次の瞬間、石化攻撃を受けたかの如く一瞬にして体が固まる。

私の目に映ったのが、カルシュ様とオルシェンカ様であったからだ。


「おはようございます、マリアさん」


そう言うと、カルシュ様はティーカップをテーブルの上に置く。


「えっ!?えっ!?カルシュ様にオルシェンカ様!?」

「どどどど、どうしてココに!?」


完全に不意を突かれて動揺した私は、声が裏返ってしまう。

そして、自分がネグリジェの状態であることにも程なく気づき、慌てて部屋に舞い戻ると外行き用の服装へと着替えた。


再び部屋を出ると、ユーリーが待ってくれていた。

そして、一緒にノルの部屋まで行き彼女の身支度を整えた後、居間へと出頭しゅっとう


「先ほどは、失礼いたしました」


スカートの裾を掴んで持ち上げ、お辞儀をする。

カルシュ様とオルシェンカ様は苦笑しながら、私たちに一緒に朝食を頂きましょうと提案して来た。


「もっとも、ここは貴方の城なのだから、私が言う事ではないのですが」


と、付け加えられた。

そして、食事が始まる。


「まさか…昨日の今日で、しかもご足労頂けるとは思ってもおりませんでした」

「ご連絡いただければ、こちらから参りましたのに…」


「いえ、お気になさらず」

「そんな事よりも、実はサルバン伯家の屋敷が、かつてこの城の近くにあったことが分かりまして」


「えっ!?もう分かったのですか?」


男爵家の三男坊の諜報力恐るべし。


「ええ、この城の裏手にある丘の上の方にあったようです」


「え?でも、あそこは何度も行っていますが、屋敷のようなものは見たこともありませんわ」

「ねぇ、ユーリー」


「マリアの言うとおりです。そこには広いお花畑が広がっているだけで、建物の様なものは見たことがありません」


「ふむ…そうなのですか。1500年近く前の事ですから跡形もなく朽ちてしまったか、もしくは、もっと奥の方にあるのかも知れませんね」

「まぁ、とりあえず朝食後に一緒に行ってみませんか?」


「それは、もちろんご一緒させていただきますわ」

「ノルのためですもの」


そう言って、ノルの方に視線を向ける。

既に、朝食を食べるのに夢中だった彼女は、私たちの話は全く聞いていなかったようだった。


ちなみに、ノルには昨日のような堅苦しい言い方は止めさせている。

恐らく、最初に出会った時の言葉遣いが本当の彼女の姿なのだろうから。

そんな彼女を見て、カルシュ様は微笑みながら言う。


「ははは。続きは後にして、冷めないうちに我々も頂きましょう」

「っと失敬、私が言う事ではないですね」


「いえ、カルシュ様のおっしゃられるとおりですわ」

「私たちも頂きましょう」


こうして6人で雑談をしながら朝食を頂いたのであった。

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