第70話 初ゴブリン

5月に入るとジャイアント・ラットの退治依頼は、見る影もなく依頼から姿を消していた。

それと同時に、今度はゴブリン退治の依頼が、ちらほらと見られるようになった。

そういうわけで、初のゴブリン退治のために、ジェンヌの街の東の街道から少し入ったところにある小洞窟へとやって来ている。


「思ったより広い洞窟ね」


洞窟の高さは恐らく3mくらい、幅は私たち3人が横に並んでいても、まだまだ余裕があった。


「逆に言えば、ゴブリンの数次第では簡単に囲まれてしまうっていうことだね」


松明を片手に、ユーリーは言う。


「依頼内容には10体くらいって書いてあったし、固まっていれば私のファイア・アローで余裕じゃない」


私が言い終わるのと同時に、私の目の前に突如カヤさんが回り込む。

キン、という音と共に、それは落ちた。


「矢…?」


「そろそろ、会話は控えた方が良いかも知れませんね」

「今の一撃は、私が防がなければマリアさんの喉に突き刺さっていましたよ」


「…っ!!!」

「ごめんなさい、カヤさん」


「ごめん、僕がちゃんと周りを見ていないばかりに…」


「確かに今のお二人であれば、ゴブリンも相手にはならないでしょう」

「但しそれは『正面でやりあえば』の話です」

「彼らは、夜目が利きますし、今までのモンスターのように単純な行動はしません」

「っと、言っているうちに逃げてしまいましたね」


そう言って、カヤさんは刀を鞘に収めた。

こうして、再び洞窟の奥へと歩みを進める。

今度は、無駄話をせずに全神経を集中させながら。


「待って」


ユーリーは、そう言って手で前を遮った。


「左斜めの岩に人影がある」


目を凝らしてよく見ると、確かに人ではないゴブリンの影が見えた。

それを確認し終えた次の瞬間には、私はファイア・ボールを放っていた。

見事に命中し、悲鳴のような叫び声と共に炎に包まれたゴブリンは岩から落ちる。

念のため少しずつ近づいていき、最後はユーリーが剣を突き刺してゴブリンが息絶えていることを確認した。

それと同時にゴブリンは灰と化して消え失せたのだけど、この音を聞きつけてゴブリン達が集まって来た。


「1、2、3………8、9…」

「今いるゴブリンは全員剣を持っている…いや、マリア、右から2番目のゴブリンに魔法を放って!」


「分かったわ。ファイア・ボール!」


私が放ったのと同時に、そのゴブリンもこちらに向けてファイア・ボールを放って来た。

お互いの魔法がぶつかり合う。


「くっ!」


魔法がぶつかり合ったことによって生まれた衝撃波と土煙に、私は耐えるのがやっとだった。


「こほこほこほ………あれ?…ユーリーはどこ?」


煙が充満していてよく見えなかったが、すぐ近くに居るカヤさんが何事もなく立って前を見つめていることから、恐らくユーリーは他のゴブリンに向かって行ったのだろう。

少しずつ煙が晴れていくと、前方から一人の人影が見えた。


「ゴブリン!?…いえ、ユーリーだわ!」


付き合いが長いから、影だけでも分かる。

あの歩き方は、見間違えるわけがない。


「いやぁ、凄い爆発だったね」


のほほんとした顔で、ユーリーはそう言った。


「それより、ゴブリンよ!」


「うん、それなら大丈夫だよ。煙で混乱している隙に全部やっつけたから」


「え!?こんなわずかな間に?」


「普通なら無理だけどゴブリン達は混乱していたからね。おかげでボスのゴブリン・メイジを真っ先に倒せたよ」


そう言うと、爽やかな笑顔を私に向ける。


「お見事です。ユーリーさん、マリアさん」

「しかし念のため、他にゴブリンが居ないかどうか確認してから帰りましょう」


こうして、私たちは念入りに洞窟を見回って他にゴブリンが居ないことを確認してから、そこを後にしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る