第69話 そんなもの見せないで

山賊の件も一件落着となった私たちは、後顧の憂いもなくなり日々ジャイアント・ラットの退治に励んでいた。

今日は、ユーリーの村近郊の洞窟でジャイアント・ラットの目撃情報が複数あったということで、おじ様ユーリーのお父さん直々の依頼によりやって来ている。


「マリア、そっちに7匹向かわせたよ」


「任せて、ファイア・アロー!」


7発の放ち、それらは全てジャイアント・ラットに直撃した。

そして、断末魔の叫びと共に塵となって消え失せたのだった。


「ふふん、どうよ」


なけなしの胸を張りながら、近づいてきたユーリーに見せつける。

しかし、ユーリーには全く効果が無くスルーされたのだった。


「これで大方片付いたかな」


「そのようですね。でも、あと2匹、この奥に居ますよ」


そのカヤさんの言葉に、私たちは洞窟の奥へと歩みを進める。

そして、洞窟の最奥に到着すると、カヤさんの言うとおり2匹のジャイアント・ラットがそこにいた。

2匹は前後重なるようにくっ付いていて、後ろの方にいるジャイアント・ラットがもぞもぞと動いている。


「ゆ、ユーリー!あれ、交尾してるんじゃないの!?」


「ま…まぁ…そのようだね」


「さぁ、マリアさん。魔法で一気にやってしまいましょう」


「や…ヤるって、交尾中にですか!?」


「ちょうど2匹がくっ付いているからね…」

「僕が範囲攻撃のスキルを持っていたらするんだけど、あいにく、まだ覚えてないし…」


「あぁっ!もう!分かりましたよ!」


私の放ったファイア・ストームで、最後の2匹を片付けた。

南無釈迦牟尼仏。

こうして退治も終わり、今は報酬を受け取りに街へと繰り出すべく馬車を走らせている。


「どうしてファイア・アロー2本を撃たずに、ファイア・ストームで止めを刺したのですか?」


カヤさんは不思議そうに訊いてきた。

確かにその方が、魔力の消費が少ないから当たり前の話ではあるのだけど…。


「それは…退治するモンスターとはいえ、流石に子供を作っている最中の2匹の断末魔を聞きたくなかったから、火力の高い一瞬で倒せる魔法を使ったんだよね?」


ユーリーが私に代わって答えてくれた。


「なるほど、勉強になります」


カヤさんが私の顔を真顔でまじまじと見ながら言うので、余計に恥ずかしくなってしまった。

ギルドに到着した私たちは、受付のアリシアさんに報告を行う。


「まぁ!ジャイアント・ラットのクイーンを倒したのね。凄い!」


彼女は、そう言って褒めてくれた。


「クイーンって警戒心が高いし素早いしで、結構骨が折れるって聞いているのだけど」

「どうやって倒したの?」


興味津々に聞いて来るアリシアさんに、私は答えられなかった。

交尾中の隙を狙ってファイア・ストームで倒したなんて、恥ずかしくて言えない。

答えられないでいる私に代わって、カヤさんが口を開いた。


「交尾に夢中だった2匹に、マリアさんはファイア・アローではなくファイア・ストームを放ちました」

「次の世代に繋げたいという熱い交尾中の2匹の断末魔を聞きたくない、苦しませたくない、しかし退治はしなくてはいけない、と悩んだマリアさんは葛藤の末、一瞬で倒せる火力の高い魔法を選んだのです」

「そんな優しい心遣いが出来る彼女に、私は大きく心が震えました」

「流石は、私を作られたネネカ様のご令孫であられます」


いつもは、寡黙なカヤさんとは思えないほど、異常な程の饒舌な口調だった。

私は、両手で顔を隠したい気分だった。


「ま…まぁ、そうだったんですね」


私の顔をチラチラッと横目で見ながら、アリシアさんは苦笑いをする。


「でも、それは意外と有効な手かも知れませんね」

「モンスターブックも更新しておかなくっちゃ」


そう言うと、自身の簡易メモに何やら書き込んでいた。

どうやら、今まで交尾中に遭遇した冒険者はいなかったようで…いや、もしかしたらいたけれど報告を上げなかっただけなのかも知れない。

ともかく、私の恥ずかしい戦闘記録は、無事?後世に語り継がれることになったのだった。

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