第68話 山賊の頭の正体

場所は変わり応接室。


若い…と言っても私たちよりは年上だろうけど、若いシスターがテーブルの上に美味しそうなクッキーと紅茶を人数分置いていく。


「そのクッキーは、こちらのバドさんが作られたもので、作り立てでとても美味しいんですのよ」


初老のシスターでこの施設の管理者でもあるエーフェミアはそう言うと、移動中に私たちに紹介していた山賊の頭バド・・の方を差した。


「は…はぁ…では、いただきます」


私は恐る恐る、それを口に入れる。


「………んぐっ!…美味しい!……とても美味しいわ!」


何この、香り豊かで甘さも控えめなのに濃厚な味わい。

正直、カヤさんやユーリーに全く劣らない‥‥どころか、それを上回っているものであった。

これを、こんなごつごつした筋肉オヤジが作り上げたなんて、信じられない。

人の姿かたちでクッキーを作るわけじゃないのだから当たり前なのだけれど、正直驚きを隠せなかった。


「ところで、そちらのバドさん、なのですが…」


ユーリーが全てを言い終わる前に、男爵の三男坊カルシュが口を開く。


「ええ、分かっていますよ」

「山賊…だと言いたいんですよね?」


「ご存じだったんですか?」


私とユーリーの声がハモる。


「勿論です」

「何故なら、貴方がたの襲撃を指示したのは、このですので」


そう言って、カルシュは笑みを浮かべながら右手を胸にあてた。


「えっ!?え!?どういうことですの?」


動揺している私を見て、カルシュはクスクスと笑った後『済みません』と謝罪して話を続けた。


「実はですね、マリアさん。私は、貴方の父君・母君とは旧知の間柄でして、街を出られる前に頼み事をされていたのですよ」


『あの子は、自信過剰なところがあるでの。少しは痛い目を見せねばならん』


「と、私にそう申されまして、折を見て分からせてやってほしい、と」

「そこで、私の直属の配下の…じゃなかった、元山賊で、今は街のパン屋を営業している知り合いのバドさんにお願いした、という次第です」


カルシュが元山賊の頭バドを手で差したあと、変わってバドが話し始めた。


「あっしが山賊だったのは事実です」

「十数年前、貴方のご両親を仲間と共に襲いました」

「しかし、散々に打ちのめされて街のギルドに突き出され投獄されました……」


それはそうだわ。

ぐうたらのママはともかく、パパはこの世界でも指折りの英雄で魔王を打ち倒した実力者ですもの。


「刑期を終えて出所したんですが…当然、行く当てもないですし、また元の暮らしに戻るんだろうと、皆思っておりました」

「そんなあっしらの為に、貴方様のご両親はここに居られるこくお……ごほん」

「この国の男爵家に口添えまでして頂いて、仲間共々仕事を持てるようになりました」

「いつか、その恩返しをしたいと思っておりましたところ、今回の話が持ち上がりまして」

「正直、全く気が乗らなかったのですが、貴方様のご両親からも直接頼まれまして、引き受けやした」


「まぁ、そうだったんですのね…」


「君たちから巻き上げたお金は、既に施設ここの維持費に使ってしまってね」

「当時のままの状態でお返しすることは出来ないけれど、勿論、利子を付けてお支払いします」


「それには及びませんわ、オラ=ノヤン様」

「もう返って来ないと諦めておりましたし、返して貰うとしたらお母様・・・から返してもらいますので、ご心配には及びませんわ」

「おほほほほほ」


私は口元を手で隠し、淑女として相応しい笑顔を見せたのだけど。

私の横のユーリーは苦笑いをしているし、カヤさんを除いて全員引いている気がするのはどういうことかしら。


「ふふ、貴方はとても面白い方ですね」

「こんなことをしておいて言うのもあれですが、今後ともよろしくお願いします」


「え!?あ、はい。こちらこそよろしくお願い致します。オラ=ノヤン様」


「ははは、カルシュでいいよ。マリアさん」

「ただの、しがない男爵家の三男坊ですからね」


カルシュはそう言うと、その甘いマスクでウインクした。


「それでは、お言葉に甘えましてカルシュ様。よろしくお願い致します」


こうして、私たちは初老のシスターのエーフェミア、男爵の三男坊カルシュとその従者オルシェンカ、そしてパパやママとも旧知の元山賊の頭バドと固い握手を交わしたのだった。

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