第67話 ぺろぺろ再び、そして金属の味もした

カヤさんが建物の扉を開けると、そこには私たちが思っていたものとは全く違う光景が広がっていた。


「わぁ、メロンパンがいっぱーい」


「このチョココロネ、俺のな」


「私はレーズンパン」


「はっはっは、そんなに急がなくても、全員の分あるからな」


十数人の子供たちは、山賊の頭が持ってきた木箱に集まって、それぞれ好きな菓子パンを手にしていた。


「これは一体…どういうことなの…」


山賊の頭は私たち声に気付き、そして私とユーリーの顔を見るなりギョッとした。


「まぁまぁ、どうしたの?」


少しばかり年を召された方特有のかすれた声をしながら、その人は現れた。

恐らく施設の管理者と思われる初老のシスター、その彼女の側には若く聡明そうなエルフの男性、軽装ながら白銀の鎧を身にまとった若く凛とした女性が付き従っている。


「こっ…この人っ!私たちのお金…んぐんぐ……っ!!!」


私は山賊の頭を指差して言おうとしたけれど、ユーリーの両手によってそれは遮られた。


「マリアさん、落ち着いて下さい」


「そうだよ。今ここで、そんなこと言ったらどうなるか」


カヤさんとユーリーは、私にだけ聞こえるように耳打ちをする。


「良い匂いに誘われてしまったとはいえ、許可なく建物の中に入ってしまい申し訳ありませんでした」

「私は、ユーリー・R・ウーサーと申しまして、こちらは私の連れのマリア・E・オーエン・・・・、そしてこちらが彼女の遠い親戚にあたるジェラート・カヤでございまして、最近引っ越しをして参りましたので案内がてら街を散策していたところ、ついつい匂いに誘われて中へと入ってしまいました」


ユーリーったら、そんな嘘をよくも噛みもせずに言えるものだわ。

そう感心していると、今度は初老のシスターが口を開いた。


「まぁまぁ、これはこれは。ご丁寧なあいさつ痛み入ります」

「私は、ここの施設の管理者をしていますエーフェミア・サレハルダと申します」

「そして、こちらは…」


「はじめまして、私はこの街のりょ………コホン」

「この街の一角に屋敷を構えている男爵オラ=ノヤン家の三男で遊民として気ままに暮らしています、カルシュと申す者です」

「そして、こちらは私の従者で、オルシェンカ・ノーヴィという者です」


「はじめまして、以後お見知りおき下さい」

「………???…どうかなさいましたか?」


「いえ…この国の王の盾と呼ばれる近衛隊長シルヴィア・ノーヴィ様に瓜二つだなぁ…と。あっ!姓が同じという事は………」


「はい、私はそのシルヴィアの双子の妹です」


「まぁ!そうだったのですね!」

「あの方は、私たち女性冒険者の憧れなんです」

「市井の生まれでありながら、類稀な才能で王の盾と呼ばれるまでになられたお方」

「オルシェンカ様も、とても素敵ですわ。流石はシルヴィア様の妹君ですわ」


私は早口に言うと、緩み切った顔をしながら許可も得ずにオルシェンカの左手を両手で包み込むように持った。


「はっ!?これは、とんだ失礼をっ!!!」


無礼を働いた事に即座に気付き、パッと手を離す。

と同時に、この前に街中で会ったあの変態エルフの気持ちが少し分かってしまい、何とも言えない気持ちになって頭を抱えたのだった。


「ははは。彼女なら大丈夫ですよ」

「それより、ここで貴方がたにお会い出来たのも何かの縁」

「少しばかり、お話をしていきませんか?」

「お時間が合えば、の話ですが」


カルシュは、ここの管理者であるエーフェミアに視線を送る。


「私も、そう思っておりましたところです」


こうして、私たちは更に施設の奥へと足を踏み入れたのであった。

もちろん、山賊のかしらも含めて。

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