第66話 山賊の頭が街にいた

春になると、ジャイアント・ラットの退治依頼が今までが嘘のようにあふれかえっていた。

そういうわけで、退治依頼を受けまくって東へ西へ、ある日は大洞窟、そのまたある日は森にある遺跡の中、はたまたある日は郊外にある誰も使わなくなった屋敷いう風に、とにかく受けても受けても依頼は舞い込んできて毎日がてんやわんわ。

ただ、この時期に大部分を退治してしまわないと農作物への影響も深刻なものとなるため、手の空いている冒険者は最優先で退治依頼を受けている。


「お疲れさまです」

「次も宜しくお願いしますね」


そう言うギルドのアリシアさんの額にも汗が見える、という日々が続いた。

そんな日々も、ようやく終わりを見せ始めた頃。

いつものように報酬を受け取って城に帰る前にレストランで食事をとったあと、散歩がてら街のお店を3人で見て歩いていると、ふと見覚えのある顔が視界に入って来た。


「どこかで見たような…あっ!」


「どうしたの?マリア」


「あいつ!あれよ、あれっ!」


「え?…あっ!あの人…」


「山賊のかしら!」


私たちの声がハモった。


「山賊?…あぁ、お二人を襲ったという人たちですか」


「ですです」

「まさか、こんなところに居たなんて灯台下暗しだわ」


私たちは、山賊の頭の後を付けることにしたのだった。


………。


「あれだけの荷物を持って、一体どこへ向かうのかしら」


山賊の頭は、大きな木箱を二箱載せた荷車を押して歩いていたが、やがてある建物の前で足を止める。

そして、その建物に併設されている倉庫の扉をギギギと開け、中へと入って行った。


私たちは、男が建物の中に入り倉庫の扉を閉めたのを確認したのち、急いでその建物の入口に駆け寄る。

建物の看板には「児童養護施設」と書かれていた。


「ユッ、ユーリー!大変よ!!!子供たちが山賊に襲われてしまうわっ!」


「うん。もしかしたら、あの木箱は誘拐のためかも」


「私たちとは関係ないですが、カヤさんも手伝って頂けますか?」


「その必要はないかと思いますよ」


「えっ!?それはどういう…」


私たちが理由をこうとする前に、カヤさんは扉のノブを握り開けたのだった。

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