第63話 私は心の中を見ることが出来ない

年も明けて、まだまだ宴もたけなわの頃。

話しは少し遡り、2日前。


夜、暗い自分の部屋で全身に毛布をかぶりながら、私は机の椅子に座っていた。

怖いから毛布をかぶっているのではない。

あくまで寒いからよ?勘違いしてはいけないわ。


そんなことはともかく、目の前のノートパソコンのディスプレイにはアリシアさんの姿があった。


「アリシアさん、お忙しいところ済みません」


「大丈夫よ。今日は私、宿直ですから」

「ところで、相談があるっていうお話だけど、何かしら?」


「はい…これは、私のいとこ・・・の話なのですが」


「はい」


(あら?おかしいわね。確か、マリアちゃんのいとこ・・・さんは皆さん随分前に老衰で亡くなられているはずだけど………)

(いとこどころか、その子孫の方々も…今、居られるのって数十代先の子孫の方だけのはず‥……)

注)アリシアの心の中は、神によって皆様にお伝えしています


「誕生日に指輪を貰ったらしくて」

「あ、でも、指輪と言っても正式な物ではなく、魔法の付与効果が掛かった物で装備品でして…」


「なるほど、なるほど」

(マリアちゃん自身の事だったのね)


「それをくれた男の子に、お返しをしたいらしくて」


「あらあら~青春ってやつね」

(ユーリー君の事ね)


「何を送ったら良いものかと思いまして………」


「うーん、そうねぇ」

「贈られたものと同じように、例えば筋力や攻撃力が上がる効果のある指輪とか、どうかしら」


「あれ?私、相手の方が前衛職ってご説明したかしら?」


「あっ!?えっと………あー!そうでした、そうでした!」

「この前、同じような相談を受けたもので、その話と混同してしまったようだわ」

「うふふふふ」

(あぶない、あぶない)


「そうだったのですね。でも、流石はアリシアさん」

「恋愛経験豊富だというお噂は、他の冒険者の方々から聞き及んでおりました」

「ご相談して正解でしたわ」


「そうなのね。それは私も知らなかったわ」


「え?」


「いえ、なんでもないのよ」

(私32にもなってまだ未婚だし、付き合っている方もいないどころか、いままで付き合った事すらないのだけど………)

(何故か若い子たちは、私に相談してくるのよねぇ…私が相談したいくらいなのに………)


「でも、他の方と重複しているようですが、筋力や攻撃力が上がる効果のある指輪を送ろうと思います」


「うんうん、それが良いと思うわ」

(誰とも重複してないから、大丈夫よ)


こうして、私は贈るプレゼントを決め、翌日、食品の買い出しのため皆で街へとやって来た。

途中、お腹が痛いからトイレに行くと言って抜け出し、こっそりと目的の品物を購入。

その後、新年の挨拶にギルドへと立ち寄り、アリシアさんに無事買えたことを伝えたのだった。


そして、帰りの馬車。


「結構、長かったようだけど、お腹は大丈夫?」


「えっ!?あー、ぜんっぜん大丈夫よ!?」


「そう、なら良かった」


元から痛くもないし、当然なのだけれど。

でも、なんだろう。

途中で抜け出す理由なんて、他にたくさんあっただろうに、なぜ私はあの方法を選んだのかしら。

美少女として、また何かを失ったような気がした。

そんな事を思いながら、馬車の荷台の方に座っているカヤさんの方に視線を向けると、彼女はうつむいていた。

どうやら寝ているようだ。

体が小刻みに震えているようにも見えるけど、恐らく馬車の揺れのせいに違いない。


ともかく、無事に目的のものを手に入れて、ユーリーの誕生日を迎えられたのだった。

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