第62話 神社へお参りに行った
ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン………。
間もなく年が明けることを告げる鐘の音が、どこからともなく聞こえてくる。
「ユーリー…私はもう駄目…貴方だけでも先へ進んで…」
ユーリーの腕に抱きかかえられながら、私は言う。
「何を言ってるんだ、マリア!そんなこと出来るわけないじゃないか!」
ユーリーは、私に励ましの言葉を投げかける。
そんな私たちのやり取りを他所に、周りでは他の冒険者たちによって激戦が繰り広げられていた。
無数の『カドマツ』と呼ばれる特定イベント型モンスターたちと………。
カヤさん曰く。
「この時期のカドマツは、仕える主人の敷地に入らせまいと妨害行動をするのです」
主人…というのは『加藤まつ』と呼ばれている…これも特定イベント型モンスターで
ちなみに、その『加藤まつ』さんは私たちがいる場所より少しばかり先に建てられている神社という建物がある敷地の入口で、最後の難関として立ちふさがっていて、かすかに小さくその姿を見ることが出来る。
なお、カヤさんはとっくの昔に攻略を完了していて、わざわざ戻って来たあと例の如く木の上で私たちを見守っていた。
そして、冒頭に戻る。
「うぐっ!………やばっ!」
私は、ユーリーから離れると通路の端まで走って行き、美少女が決して出してはいけないような盛大なうめき声を上げた。
そんな私に、ユーリーはすぐさま駆け寄ってくれて背中をさすってくれた。
その後、10分程休憩してようやく調子を取り戻すことが出来たのであった。
しかし、このイベントは時限的な制約があって残りは30分程。
私たちがいるのは、まだスタート地点。
「どうされますか?」
カヤさんの問いに対して、私たちはあくまで自分たちの力で行くと答えた。
そして、再び地獄のようなカドマツの妨害が始まったのであるが、程なく私たちは気付いた。
「フェイントだ」
カドマツは私たちと逆の行動をする…私たちが右に行こうとすれば左に、左に行こうとすれば右に移動し妨害するのだけれど、周囲の冒険者を観察していた時フェイントには対処出来ていなかった。
右へ行くと見せかけて、相手が追って来る動きをした瞬間すかさず反転させると、相手はその動きに付いて行くことが出来ず見事にカドマツを抜いて先に進むことが出来た。
「これなら行けるわ」
「だね」
それからは、この作戦を何度も行って、残り5分というところで神社の入口を守るモンスター『加藤まつ』の下までやって来た。
「よう、ここまで来たのぅ」
「ここを通してやりたいところじゃが、これも試練なのでな」
「手加減はせぬぞ」
正直、モンスターが言葉を発したことにツッコミを入れたかったのだけれど、今の私たちにはそんな時間的余裕は全くなかった。
私たちは左右に分かれて、突破しようと試みる。
しめ縄という武器は長いとはいえ、あくまで一つの武器。
同時に二人は攻撃出来ないはず。
そうなのであれば、どちらか一人は突破することが出来るだろう。
「ふむ、考えたのう」
こうして、残ったのは
「小僧を相手にと思ったのじゃが、何故か本能がお主の方を邪魔してのう」
「もしかしたら、何か因縁でもあるのかも知れん」
「私、貴方とお会いするの初めてなのですけれど…」
「ふふ……別に、お主本人とは限らん」
「ともかく。さぁ、来るが良い」
「言われずとも参りますわ」
そう言うと、私は駆けた。
「むっ!?正面から来るじゃと?」
残り1分を切っている状態なので、変な小細工をしている余裕はない。
思ったとおり、しめ縄が一直線に私のところに向かって来る。
それを、目の前まで来たところを見計らってジャンプ。
「おっとと……」
少しよろめきながらも、見事にしめ縄の上に乗ることに成功した。
これも事前のカヤさんによる訓練のたまものであった。
「後は、このまま走るだけ」
「間に合って!」
そんな願いと共に走り出そうとした瞬間、私は宙に浮かんでいた。
「え!?あわわわわっ!!!………ぶっ!」
盛大に地表の雪に顔をうずめたところで、時間が来たことを告げるアラームが鳴った。
私が落ちた場所は、ユーリー達のいる建物の敷地の中。
つまり、クリアしたということであった。
「まぁ、真正面から向かってきた、という心意気に対するおまけという奴じゃな」
「お主の足では走っていたら間に合ってないしの」
そう言うと『加藤まつ』さんはカラカラと笑った。
というか、この人、本当にモンスターなのかしら?
「自分で言うのもなんじゃが、いわゆる聖属性のモンスター、という奴じゃ」
「それじゃあ、皆の者、神社で盛大に祈るがええ!」
その言葉に、冒険者たちは『オー!!!』と雄たけびを上げて応える。
こうして、私たちは無事に神社で年初のお参りをして、用意されていた『お汁粉』や『お雑煮』、『おせち』といった珍しい食べ物を美味しく頂いたのであった。
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