第61話 謎の二人組

てっきりユーリーだと思った私は、満面の笑顔で振り向く。

しかし、それはユーリーなどではなく、かと言ってカヤさんでもなく、そこに居たのは長身のエルフの男性だった。


耳は極端に長くもなく、かと言って極端に短くもないことから、ごく普通のエルフのようだ。

私と同じ銀色の長い髪に澄んだ緑の瞳を持つ、とても整った顔立ちをしている。


「やっぱり、思ったとおりだ」


彼は、私にそう言うと爽やかな笑顔を向けてくる。

恐らく、意中の人が居なければドキンと恋をしてしまうかもしれない。

彼は、私の左手を両手で包み込んで口を開く。


「君、凄く可愛いね。ねぇ、俺とお茶しない?」


前言撤回。

私は、彼の手の甲をギュっとつまんで引き離すと、その横をササっと素通りしようとした。

そんな私に回り込むように再び目の前に現れると、先ほどと同じように私の左手を両手で包み込んだ。


「あの…迷惑なのですけれども」


ジトっとした目で、睨みつける。


「あぁっ!いいっ!凄く良いよ、君のその怒った顔」


睨みつけて喜ぶなんて、ドが付く程のMな人なのだろうか。

包み込んだ手の甲を再びつまんで引き離そうとした、その瞬間。


スパーーーーーーーーーン!!!


という、周囲にも響き渡る音が、彼の頭上から聞こえてきた。

見上げてみると、そこには打撃系と思われる武器が乗っかっている。


「あー、ごめんなー」


そう言って現れたのは、ウサミミを生やし均整の取れた程よい肉付きの体をした女性だった。

頭に生えている長いウサミミが本物だとしたら、恐らく純血の月兎ルビット族だわ。


「そんな事より、大丈夫ですか!?」


私は、彼の頭上に乗っかったままの武器と思われるものを取り除き、ヒールを唱えようとした。


「あれ?」


そう、彼の頭は何事も無かったかのように、血も出てなければコブも何も出来てはいなかった。


「あー、大丈夫や」

「これは、うちの故郷で売られてる特殊武器で【ツッコミマせん】っていうやつでなー」

「叩いても、さっきみたいな大きい音が出るだけで、ダメージなんて全然あらへんのや」


彼女は、そう言って八重歯が見えるほど大笑いをした。


「その武器…何の意味があるのかしら…」


ひきつった顔をして、苦笑いするしかなかった。


「いやぁ、君は優しい人だね」


エルフの男はそう言って再び私の手を両手で包み込もうとしたのだけれど、3度目を許す気はない。

手の甲をペチンと叩いて、それを防いだ。


「なぁなぁ、エルフのお嬢ちゃん。人探ししとるんとちゃう?」


「えっ!?どうして分かったんですか?」


「いや、そんなん見てたら普通に分かるで」


そう言って、再び彼女はカラカラと笑う。


「あぁ…」


先ほどの占い師のお姉さんが当てたのは、そういうことだったのか。


「ちなみに、その先に居る男の子と女の人が、そうとちゃうか?」


彼女が指差した先を見ると、私のいるところとは真逆の方向のお店で丁度買い物をしているユーリーとカヤさんの姿があった。


「んじゃ、うちらはこれで行くわ」


「あ、ありがとうございます」


「ええってええって、こいつがやった分と相殺してチャラってことで」

「ほな、行くでクラス」


「美しい君、再び会えることを心より願っているよ」


「いえ、もう二度と会いたくありませんわ」


「そんなツンとした顔も素敵だ」


「はいはい、分かったから行くでぇ」


ウサミミの彼女は最後にそう言うと、クラスと呼ばれた男の人を引きずりながら去って行った。

そして、私はユーリーとカヤさんの所に合流出来たのだった。


「あれ?そう言えば、どうしてあのひとはユーリーとカヤさんの事が分かったのかしら」

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