第60話 くそちょろ

ささやかなクリスマスパーティも終わり眠りに就き、朝に目が覚めた時には部屋に飾っていたクリスマスツリーは私たちのもとを去っていた。

部屋の扉も特に開けっ放しになってはいない。

ユーリーとカヤさんは閉めてないとのことで、きっと自分で扉を開け閉めしたに違いない。

なんて律儀なツリーなのだろう。

勝手に捕まえて連れてきたというのに。


そんなこんなで、クリスマスも終わり今年もあとわずかとなった。

依頼もそこそこに、城の掃除をしているのだけれど掃除四郎君シリーズが毎日掃除してくれているので、私たちがやることと言えばいつものとおりテーブルの上を拭いたりだとか、その程度であった。


「それじゃあ、来年に向けてお昼まで畑を耕しましょ」


中庭の菜園の隅っこに建てている小屋まで足を運び、畑仕事用の服装に着替えるとクワを肩に担いだ。

二人だとお昼近くまでかかっていた作業も、カヤさんがいてくれたおかげであっという間に終わってしまった。

というわけで、お昼の準備をするまではお茶会という事にして、ユーリーが作っていたクッキーと紅茶を美味しく頂いたのだった。


そして昼過ぎ、年末年始に向けての買い出しのため街まで馬車を走らせた。

年末とあって、買いだめしようと市場はいつも以上に熱気を帯びて活気づいている。


「人が多くて、全然進まないわね…」

「ねぇ、ユーリー…ってあれ?」


すぐ側に居たはずのユーリーとカヤさんの姿が見当たらない。

周囲を見渡すようにキョロキョロと首を右往左往させたけれど、人でごった返している市場では意味のないものだった。

そもそも、みんな私より背が高くて見回すことが出来なかった。


「とりあえず、脇道に入らないと駄目ね……」


そう言いだしてから、実際に脇道に入れたのは十分も後のことだった。


「ようやく、抜け出せた……」

「遠回りだけど、脇道からギルドに向かうしかないわね」


はぐれた時は、ギルドで落ち合う約束をしていたので、二人もそっちへ向かっているはずだ。

上手くいけば、途中で出会うかも知れない。


そう思いながら歩いていると、向かう先に簡素なテントのお店がぽつんと建っていた。


(こんなところにお店なんてあったかしら?)


通りすがりに視線を向け中を覗き込むと、フードをかぶったローブ姿の女性が水晶に手をかざし座っている。

そして、看板にはこう書かれていた。


(えっと…、ジェンヌの街随一の占い師マジョリーナの占いの館)

(随一って、随分と大きく出たわね)

(それに館って、ただのテントじゃない)

(関わらないほうが良さそうだわ……さっさと、ギルドに行こうっと)


通り過ぎようとした私に、その怪しい占い師が声をかけてきた。


「ちょっと、そこの美少女エルフのお嬢さん」


その言葉に、私はピクっと反応して立ち止まる。

他に人は居なさそうだったけれど、一応、キョロキョロと周囲を見渡す。

やはり、エルフは私しかいない。

というより、占い師以外の人が私しか居なかった。


「もしかして、私のことでしょうか?」


「えぇ、えぇ、勿論ですよ」

「美少女エルフのお嬢さん。貴方の事です」

「どうです?今なら開店特価・・・・として、タダで占いさせて頂きますよ?」


「え?本当?」


私は早足に、お店の椅子へと腰かけた。


「何が占えるのかしら?」


「何でも占えますよ」

「例えば、貴方は今、どなたか人をお探しではありませんでしたか?」


「凄い!そのとおりよ」

「それじゃあ、どこにいるか占ってもらえないかしら?」


「造作もない事です」


マジョ…なんだっけ、占い師のお姉さんは水晶に手をかざして、何か呪文のようなものを唱え始める。

水晶は次第に光り輝きを増していく。

お姉さんは『うんうん』と頷きながら水晶の中を覗き込んでいるものの、私にはただの真っ白な光が見えるだけだった。


「分かりました」

「今、貴方が進んでいた方向にそのまま真っすぐ歩いて、この通りを出た先の、市場の大通りを右に曲がって直ぐのお店に…」


「ありがとう、行ってくるわ!」


私は話を最後まで聞くことなく立ち上がると、そのお店を後にして走り出した。


------

『右に曲がって直ぐのお店に…ではなく、左に曲がって直ぐのお店の行列に並んでいるよ…って言おうとしていたのに、せっかちな子だねぇ』

『これも、運命ってやつかしら。うふふふふ……』

------


そんなことは露ほども知らない私は、市場の大通りに出ると右に曲がって、最初のお店をキョロキョロと見回す。

しかし、ユーリーとカヤさんの姿はどこにも見当たらなかった。


「んもぅ!まんまと、あの占い師に騙されたわ」


そう愚痴をこぼしながら憤慨していると、背後からポンと肩を叩かれのだった。

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