第58話 古のイベント

今日は12月24日。


夜に開催される、クリスマス・イブのパーティの食事の用意をしている真っ最中であった。

まぁ…パーティと言っても、いつもの3人だけの食事会なのだけれども。


「それにしても、こんな寒い時期にどうしてイベントがあるのかしら」


「さぁ、どうしてなんだろうね」


「私は、誰か凄い人の誕生日だったんじゃないかと思っているわ」

「そうじゃなければ、こんな寒い季節にするわけが無いんだし」


「そうだね。そうかも知れない」


「よねー」


「………」


私とユーリーが他愛も無い会話をしている中、カヤさんは少し穏やかな顔をしながら黙々と作業をこなしていた。


「カヤさんは、もしかしてご存じだったりしますか?」


「そうですね。マスター…いえ…ネネカ様と蒼治良そうじろう様からは色々と話しは伺っております」

「本当は12月25日が正式な日なのだそうですが、慣習で24日に行う…とか」


「へぇ…不思議ですね」


「そうですね」

「お訊きした限りでは、お二人…あ、ネネカ様と蒼治良様ですね。お二人の出自の国……日本……という、かつて存在していた・・・・国に関係しているそうです」


「ニホン……和国の別称のニーポンによく似ていますね」


「はい。和国もニーポンの呼び名も、元々は日本から来ている国名ですので」


「おおっ!」


初めて知ることになった知識に、私とユーリーは手を止めて驚きの声を上げた。

私たちが知識としてあったのは、伝説・伝承の類と化して実態を知る者は誰もいない、というものだった。

何せ1万年以上も前の、先史文明時代の話であるのだから。


「まぁ、でも。こんなこと周りの人に言っても誰も信じてくれないわよね」


「だね。僕たちだけの秘密にしておいた方が良いかも」


「そうよね」


そんな他愛も無い会話をしながら作業を再開したのだった。

その作業が終わると、今度は部屋の飾りつけを行い、最後に料理を運んでテーブルの上へと並べて行く。


中央には、トルティア七面鳥の丸ごと照り焼きの大皿。

トルティアというのは、コカトリスよりはかなり小型の七つの頭を持つモンスターで、それほど狂暴な性格でもない事から食用として飼育されたりしている。

そのお腹の中には、ニンジン、タマネギ、ピーマン、ジャガイモ、ブロッコリーを小さく切り炒めて塩と胡椒で味を調えられたものが入っていて、その照り焼きの周囲には、コーンの実と大きなソーセージ、パセリが添えられている。


次に、取り皿やフォーク、スプーン、コップを三人分を置いていく。


更に、カヤさんの焼いたホカホカのパンが入ったカゴ。


「中にはチーズがふんだんに入っておりますので、そのまま食べても美味しいと思いますよ」


じゅるり。


そして、最後に置かれたのはシチウの入った大鍋。


「あ、お鍋はここよ」


私は、鍋のために空けておいたスペースを指差す。


「ありがとう」


ユーリーは、よいしょっと、という掛け声とキッチンカートからそれを移動させてささやかなパーティが始まる。


「うーん、何もかもが、いつもより美味しく感じられるわ」


今日ばかりは多少羽目を外しながら、口いっぱいに頬張る。


「そう言ってもらえると嬉しいよ。と言っても、いつもの味付けだけど」


「恐縮です」


ちなみに、私は手伝ったと言っても野菜を切ったりしただけで、実際の料理は全て二人にお任せである。

そう、これは、単に適材適所というやつで、私が料理が出来ないという事では無いわ。


「ちなみにケーキもあるから、あまり食べすぎるとそっちが食べられなくなるよ」


「大丈夫、大丈夫。ケーキは別腹だから」


ひょいぱく、ひょいぱく、と軽快に口の中に入れて行くのだった。


‥‥‥‥‥‥‥‥。

‥‥‥‥。

‥‥。


「それにしても今更なのですが、カヤさん」


「はい、何でしょう」


「カヤさんは、アン…なんだっけ、ともかく、生物じゃないんですよね?」」

「食事をしても大丈夫なんですか?」


「はい、大丈夫ですよ」

「普通の方々と同じで、食事からエネルギーを作り出して動力源にすることが出来るのです」

「もちろん、食事をしなくても、太陽の光からも作れますし、大気にほんの少し含まれている魔力を吸収することでもエネルギーを作りだすことが出来ます」


「はえ~、そうなんですね」


私とユーリーは、口を大きく開けて驚いているような感心しているような顔をする。


「元々は、食事をすることまで考えて設計されていなかったそうですが、蒼治良様がそれでは一緒に食事が出来ないから面白くない、との一声で設計が見直されたと聞いています」


「おじい様の一言で、今のカヤさんが生まれたのですね」


「はい。私が誕生してからネネカ様はその事を話してくれまして、更に蒼治良様への愛が深まった、とお聞きしております」

「お二人も、そのようなご夫婦になられることを、陰ながらお祈りしております」


「だから、私(僕)たちはまだ・・そんなんじゃないですってば!」


私とユーリーは、そう言ってすぐさまツッコミを入れたのだった。

無意識のうちにまだ・・と言った事を、その時の私とユーリーは全く気付いていなかった。

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