第57話 クリスマスツリーをとりに行った

今日は12月23日。


だからといって、伝説で語り継がれている明日のイヴのためにお休み、なんてことも無く、むしろ、その日の為にジェンヌの街より北へ50kmほど行った先にあるサンターサンまで、クリスマスツリーを獲り・・に来ている。

何故、街で買わずにわざわざ獲りに来ているのかと言えば、単に戦闘訓練も兼ねているからであった。


「なに、このツリー。ものすごく速いわ!」


「だね…。全然追いつけない……」


クリスマスツリーは、根っこを足のように器用に使って驚くほど速く走っていた・・・・・


「この時期のクリスマスツリーは、狩られまいと逃げ足が速くなるのです」


訓練開始前のカヤさんの言葉で、彼女は何時ものように木に登って枝に腰かけて、私たちの動きを眺めている。

ちなみに、どれだけ早くなるのか訊いたところ時速40km程に達するのだそうだ。


そう、つまり、この雪山において一人では獲ることが非常に困難…というより無理なのである。

じゃあ、二人だと獲ることが出来るのかと言えば、そんなに簡単な話では無かった。


しかし、そこはこのシーズン。

周りには私たちの他、結構多くの冒険者が集まっている。

依頼のためだったり、私たち同様訓練も兼ねてだったりと、理由は色々あるようだけれど多くの冒険者がクリスマスツリーを追いかけていた。


前述のとおり、普通に走って追いつくことは非常に困難であるため、他の冒険者の獲物を獲ってしまってもペナルティを課せられることはなく、むしろ、他人が追いかけているものを倒すことが推奨されている。

あ…倒すと言っても、攻撃して倒すわけではなく、タックルしてツリーをコケさせることで倒したことになるという、類まれなモンスターの一種だ。


「はぁ…はぁ…はぁ……もう……だめ………」


私は、その場に四つん這いになり、うええぇぇぇぇ、とうめいた。

あくまで、うめいただけよ?

中の物を出したりしていないから、ギリOK…だと思う。


「マリアは木にもたれて休んでいて」


私の側までやって来て肩を貸してくれたユーリーによって、近くの木で休むことになった。

そんな彼は、再びツリーに向かって走り出し、私はそれを見送ったのである。

私が休むことになった木に、カヤさんが飛び移る。


「お疲れ様です、マリアさん」


「済みません。全然ダメダメでした………」


「それは、仕方ありません」

「マリアさんは、元々後衛職ですし、この雪では歩くだけでも体力を持っていかれますので」

「十分、頑張った方です」

「あとは、ユーリーさんにお任せしましょう」


そう言って、私を怒ることも無くなぐさめてくれた。


「もし、ユーリーさんも無理そうであれば、私が獲ってきますのでご安心を」


そう言って、カヤさんは言葉を続けた。


「ただ…出来れば、ご自身の力で倒して頂きたいのですが」


と、さらに続けて言う。


それから1時間ほど経って、ユーリーは私たちの下へと帰って来た。

大事そうに、クリスマスツリーを両手で抱えながら。


「お疲れ、ユーリー」


「お見事なタックルでしたよ」


私とカヤさんは、そう言って帰って来たユーリーをねぎらった。


「では、私は、まだ獲られていない方々のお手伝いをして参ります」


「あ、はい。お気をつけて」


私とユーリーはハモるように言って、カヤさんを見送った。

なお、カヤさんは雪の上でもとても速く、自力でツリーを獲れるのではないか…と思っている間に一人で一本目のツリーを倒していた。


「ねぇ?私も、それに触ってもいい?」


「うん。大丈夫だよ」


ユーリーはそう言うとツリーを差し出した。

私は、ツリーの枝や幹などを触っていく。

触るとぴくぴくと少しばかり動くので、もしかしたら、こそばゆいのかも知れない。


「それにしても、不思議よね。倒すと途端に大人しくなるなんて」


「そうだね。どうしてなんだろうね」


獲ったツリーは、クリスマスが終了するまでは大人しくなるらしく、しかも、クリスマスが終わると自ら装飾を外し自力で元の場所に帰っていくので、解き放つために再び山へと足を運ぶ必要もない。

そうして、私たちが他愛もない話で盛り上がっているうちに、カヤさんが戻って来た。


「それでは、帰りましょうか」


こうして、街へ帰ってギルドに併設している食堂でお食事をした後、城へと帰ったのであった。

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