第56話 私の秘密、知られすぎ…

「ぎゃーっ!いやーーーーっ!」


私たちは今、ジェンヌの街から少し北へと進んだところにある墓地へとやって来ている。

街の人達が埋葬されている墓地なのだけれど、全員が全員自分の人生に納得して寿命を迎えるわけではないので、失意のうちに亡くなった人の中にはゾンビとなる者もいるのだ。

そんな人たちを救えるのは、もはやゾンビと化した人たちを倒すしか術はない。

それは分かっているのだけれど…とにかく見た目がアレな上に、臭いも凄くアレなのだ。


「うええぇぇん!この前買ったばかりの冬用ローブなのにぃ!」


ゾンビのアレが、べっとりとローブに付いてしまっている。

アレというのは、もちろん腐った体液のことである。

鼻を近づけるまでもなく、もの凄い悪臭を放っていた。


「マリア、落ち着いて!彼らは歩みが遅いから、よく観察すれば間合いは簡単に取れるよ!」


ユーリーは私にそう言いながら、上手く間合いを取ってゾンビを攻撃している。


「そうですよ、マリアさん。相手の動きをよく見て下さい」


ちなみに、カヤさんは、木の上から様子を見ているのだが、その木の上にもゾンビは這い上がってこようとしていた。

しかし、カヤさんの刀の先から発した衝撃波のようなものによって、彼らは近寄ることすら出来ずに昇天させられているのだけれど。


「だって……だってぇ………ぎっ!…ぎゃあぁぁぁーーーーーーーーーっ!!!」


そう、実は私は幽霊だとかそういうものが苦手……というか怖くて仕方がないのだ。

スケルトンを相手するのにも慣れたので、もう、何も怖くない、って思ったのだけれど、それは真っ赤な嘘であった。

そして、何も考えずに逃げていたおかげで、私は数体のゾンビの集団に囲まれてしまった。


「あわわわわわ………」


ゾンビの集団にジリジリと距離を狭められた私は、使う事が無いと思っていた魔法を使ってしまう。


「エリア=エクソシスム!」


その瞬間、私を中心として周囲一帯が光に包まれた。

光を浴びたゾンビたちは最初こそ苦しんでいたものの、やがて安らかな顔となって天を見上げて、そして光の粒となって消え去った。


そんな私を見てユーリーが駆け寄る。


「凄いじゃない、マリア」


「そうですね」


木の上から跳躍して直接私の下まで降り立ったカヤさんも、ユーリーに同意した。


「しかし、どうして最初から使われなかったのですか?」


「あくまで、魔法だけで倒せて行けたら…と思っていたので…」


私はあくまで魔術師ウィザードの魔法にこだわっているので、司祭ビショップの魔法…いわゆる聖魔法はこの中には含まれない。

もっとも、今までの魔法も………。


「なるほど、そのような考えがあったのですね」


カヤさんは、私の言いたいことを理解したのか、あっさりと納得した。


「でも、マリアさん」

「エクソシスムは、彷徨える魂を救うことが出来る魔法ですので、この場合は使われた方がむしろ良いですよ」


「え!?そうなんですか?」


「はい。普通に倒しても永続的に彼らの魂を救えるわけではなく、いずれ再びゾンビとして復活してしまいます」

「ですがエクソシスムは、そうではありません」

「彷徨える魂を浄化し再び転生させることが出来る素晴らしいものです」

「ですので、出し惜しみせず使われることをお勧めします」

「……どうやら、また来たようですね」


カヤさんの向ける視線の先を見ると、新手のゾンビの集団がこちらへとやってこようとしているのが見えた。

十数体くらいかしら。


「エクソシスムに反応した彼等が、救いを求めてやって来ています」

「マリアさん。彼らを救ってやってください」


「はい」


そういう事であれば、やらなければならないだろう。

私はエクソシスムを使い、彼等を浄化していく。

ちなみに、ローブに付いていたゾンビの体液も一緒に浄化されていった。


そして、今はギルドの酒場でお食事中。

街に帰った時には既に深夜となっていて、通常のレストランは営業終了となってしまっているけれど、ギルドに併設している酒場は24時間営業していたので助かった。


「カヤさん。あの魔法はスケルトンにも効果があるのでしょうか?」


「はい、もちろんです」

「スケルトンは、戦闘で散っていった人たちのなれの果てですので、同様に救ってあげられますよ」

「なので、彼らと対峙する時は使ってあげて下さい」


「はい。分かりました」


魔王を目指しているから魔法を使う事ばかりにこだわっていたけれど、別に司祭ビショップの魔法を使う魔王がいてもいいじゃない。

でも、もちろん魔術師ウィザード魔法の方を優先的に極めるのは変わらないけれど。


「使っていけば、いずれ全ての魂を救えるかもしれないね」


ユーリーは、そう言って私に笑顔を向ける。


「そうですね。あと数千年くらいすれば、全ての魂を救えるかも知れませんね」


「えぇ…」


先は…まだまだ長いようだ。

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